毎年、この時期になると、就職活動を始める学生たちを前に、社会人としての身だしなみや、面接のテクニック的な話をする機会があります。
そんな話をするのは、自分が入りたい会社、したい仕事へ就くためには、相手に対し瞬時に自分を表現するワザを身に着けておくことが大切で、第一印象で相手に好印象を抱いてもらう方が得だからです。
ただ残念なことに、「笑顔が大事です」と言ったところで、自然な笑みというものは急には作れません。ニセモノは必ずほころびが出ます。
そして無理をして自分を飾ると、いつか必ず疲れて挫折します。
私が伝えたいのは、その場で取り繕うやり方ではなく、普段から少しずつ意識し、身につけていく方法です。最初は難しくても、繰り返し気を付けることで徐々に身につき、一生の財産になり、あなたの「強み」になってくれます。それが活きてくる場は、面接の場かもしれませんし、新しい職場や家族に対してかもしれません。
ぜひ、今から以下のことに心がけてみしょう。
➀どんな時も〝笑み〟を忘れない。
面接を例にとってお話ししましょう。まず、面接官は面接中の質疑に対するあなたの答えをほとんど採点の対象にはしていません。それは、攻略本に書かれたありきたりの回答に過ぎないからです。参考にしたとしても、せいぜい全体の5%くらいだと言われています。
最初の面接で見られているのはあなたの印象と人柄です。
扉を開けて入ってきた時のあなたの姿勢や、顔を合わせた時の表情など。背筋が伸び、程よい歩幅で席に着き、口もとはキュッと閉じてはいるけれども、やや微笑むように口角が少し上がり、人の目を見て話す、というのが理想的。
ここで、私がいつも思い出すのが、和顔施(わげんせ、またはわがんせ)という仏教用語です。
仏教の世界では、「無財の七施」といってお金が無くても出来るお布施として七つの行いがあると言われており、その一つが「和顔施」です。「あなたがそこにいるだけで、なんとなくその場の空気が明るくなる、みんなの心が安らぐ」という意味。
誰もがホッとするような、優しい笑みを浮かべている感じがしませんか?
ぜひ、そんな人間になれたらいいですね。
周りをパッと明るくするような、自然な笑顔ができると素敵です。
➁清潔感を大切にする
人の印象や評価は見た目で65%決まってしまう、と言われています。そのひとつが「笑み」に代表される顔の表情ですが、もうひとつ重要なのがにじみ出る清潔感です。
私は良く「おしゃれと身だしなみは違うものですよ」と話しますが、その違いわかりますか? おしゃれは自分のためにするものですが、身だしなみは相手を思ってする行為ともいえるでしょう。周りにいる人が、心地よいと感じる服装や、清潔感が不可欠です。白いブラウスの襟や袖の内側が、黒ずんでいたらそれだけでアウトです。
面接を始め、会社での新入社員はとかく初々しさが求められます。それはメイクで表現することができますが、ファンデーションを厚く塗らない(素肌感を残す)、アイライナーは引かずアイシャドーのみにして、まつ毛エクステやつけまつ毛もしない方が、企業が求める「初々しさ」を表現することができます。
③人間関係は、礼に始まり、礼に終わる
礼儀正しい人はどこに行っても好かれ、尊敬されます。すべての人間関係の基本は、「礼」にあると言っても過言ではありません。
「おはようございます」「ありがとうございます」「お世話になりました」などの言葉は、礼をもってするのが基本ですが、言葉で伝える人はいても、そこに30度~45度ほどの「礼」をともなってする人は減ったように感じます。
だからこそ、それができたら一目置かれることでしょう。
面接の際のお辞儀は、扉をノックするときは15度、面接官の近くにきたら30度、本当にその会社に入りたいと思ったら立ち上がって45度、出口の扉では笑顔で15度。この角度を忘れないで、ぜひ実行してみてください。良い印象を残せるはずです。
美しい「礼」ができるように、鏡の前で練習してみるのもおすすめです。
④初対面での会話のきっかけは相手を褒めること
「相手を褒める」。これは心にもないことを言って「相手に媚を売る」とこではありません。言い換えると、相手が気づいていないような「いいところ」を、あなたが発掘してあげて、自信をつけてあげるのです。
初対面の人に自分から声をかける勇気が出ない、という人は、できるだけ相手を見ていて目があった時に「ニコッ」とほほ笑んでみてください。それに微笑みで返してくれる人は、波長が合う人です。
最初は「今日は寒いですね」「雨が降るそうですよ」など、他愛もない会話でいいのです。そして、「この人と知り合いになりたいな」「もっと話したいな」と思ったら、相手を褒めてみましょう。例えば、「お肌がとてもキレイですが、どんなケアをしているの?」「そのバッグ素敵。どこで買ったの?」など相手が答えやすいものがいいでしょう。
相手の方は褒められて気分が良くなりますし、どんなケアをしているのか答えるために、「はい」「いいえ」という答えでは終わらず、会話のキャッチボールが続きます。
⑤自分の弱さを打ち明けられる友人、仲間を持つ
新しい環境でまわりに知り合いがいないと、つい見栄を張って自分を大きく見せたり、自分の価値を上げようと自慢話をする人がいます。
でも、これは大きな間違い。
自分の弱さや愚かさを表すことで、親しい友人や本当の友だちができるということを忘れないで欲しいと思います。
人が親しくなっていく過程ではどうしてもお互いの自己開示が必要になっていきます。それは「相手に心を開く」ということが、「相手の心を開く」ことに通じるからです。最初からウソで自分を大きく見せていたら、いずれそのウソを取り繕うためにますます上塗りをしなければならなくなります。
それよりも、自分の弱さを受け入れ、それが他人に見抜かれてしまっても落ち着いていられる人が、本当に強い人です。さまざまな研究結果で、心の奥底で感じている情緒的ストレスは、人に打ち明けることによって、血圧や心拍数の上昇など、身体的ストレスを柔らける効果があるということがわかっています。
つまり、弱い自分を受け入れてくれる人を周囲にたくさんもっている方の方が、本当の意味で強くなれるということですね。
本当の幸せとは、見栄を張らず、自分自身をさらけ出せる仲間がいること。
「私はこんなに偉いんだ」という人には誰も寄ってきません。無理をせず、〝自分らしさ〟に従って生きている人に安らぎを感じて寄ってくる、そう思いませんか。
たくさんの人と出合える新しい環境では、自分を飾り立てずに、そんな正直な自分を認めてくれる仲間をぜひ作ってください。(文/土屋綾子)