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Life Style
2016-06-08
スタイルのある生き方
京都のステイは町家で。暮らすようにゆったり滞在を楽しむ

一度でも京都を訪れたことのある人なら、昔ながらの素朴な家屋が立ち並ぶ通りに魅せられたことがあると思います。京都風情を代表するもののひとつ、京町家は伝統的な木造建築とその空間における暮らしを今なお残している歴史的資産。京都には、その町家を保存するためのさまざまなプロジェクトがあります。

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現在の京都市の定義で、「1950年以前に伝統的木造軸組構法で建てられた木造家屋」とされるのが京町家。約18年前、1998年に行われた市の調査では、市中心部で約28000軒あり、市内全域で推計5万軒残っているとされていました。ところが2010年8月、市内全域を対象に京町家の実態調査を再び行った結果、47735軒が残存しているものの、うち10.5%が空き家であることが判明。所有者がいても、多くは高齢者で、子供たちは別の場所に移り住んでいることから、相続が発生した際に、次世代に現状のまま引き渡すことができるかが課題となっています。

実際、相続税の負担や維持改修費用などの問題もあり、毎年およそ1000軒の割合で町家は消失しているというのが現状。そんな状況から、町家を保存し、地域固有の文化を活かした町並み再生を図るプロジェクトが多数行われ、京町家を借りたい人、貸したい人、買いたい人、売りたい人のネットワークも広がりつつあります。

その中のひとつ、町家暮らしを楽しめる場所として特に海外の方からの評判が高いのが<庵IORI町家ステイ>。京町家を短期滞在の一軒貸しホテルとして再生活用する「京町家ステイ」を実施することで、町家の魅力を世界に広めています。

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京町家はその長い歴史の中で、機能的な工夫が絶えず重ねられてきました。土壁や障子・襖の和紙などの自然素材は、湿度の高い季節に湿気を吸い込み、乾燥する季節には吐き出し、心地よい環境を保ってくれます。また町家は、夏には襖を風通しのよい簾戸に、障子を御簾にと「衣替え」をします。それらは合理的でしかも美しく、学ぶべきことがたくさんあります。ですが、何もかも昔のままでは現代の住まい手には不便な面も。そこで、快適に過ごせる空間として町家を改修し、「町家に住まう」ことの可能性を多くの人に伝え、町家とともにある京都の上質な暮らしの文化を体験してもらうことが、<庵IORI町家ステイ>の目的でもあります。

現在<庵IORI町家ステイ>が管理する町家は11軒。旅行者にとっての利便性を考慮し、すべて市街地の真ん中、四条河原町、烏丸四条を中心に分散しています。京町家と同時に京都の街歩きを楽しんでもらおうと、繁華街でも路地に入ったところなど、京風情が深く残る場所を選んでいるそうです。

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いずれの町家も歴史を刻んだ古い建物の良さはそのままに、夏は暑く、冬は寒い京都で快適に滞在できるよう、エアコンや床暖房を入れるなど、設備は現代的。料理をすると家屋に匂いが染み付いてしまうため、本格的なキッチンは敢えて外してありますが、電子レンジやコーヒーメーカー、有機自家焙煎のコーヒー豆などは常設しています。

キッチンがないのには、もうひとつ理由があります。それは京都は京料理だけでなく、現代的なフレンチやイタリアンの名店、京野菜を使った中華などが数多くある美食の街。町家の外の京都も楽しんでもらいたい、食事は外でいろいろ味わってほしいという願いもあるからだそう。

お風呂は檜を使った風情あるもので、川や中庭が見えるなど、眺望がある空間を心掛けて修復しているそうです。

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町家によって宿泊できる人数は違いますが、家族4~5人で、あるいは夫婦やカップルでと宿泊スタイルはさまざま。リピーターも多く、中には一ヵ月ゆっくり滞在し、能や書道、お茶などのあらゆる文化体験を堪能していく外国人ファミリーもいるとのこと。そういった文化体験の手配や、町家の中で食事をしたい場合の仕出しの手配、朝食のデリバリーなどもすべてアレンジしてもらえます。

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鴨川沿いにある町家なら、朝昼晩と気持ちのいい景色が眺められるのも魅力。現代的な設備が整い、快適な滞在を楽しみながら、同時にしっとりとした京都の雰囲気も堪能。畳の温かい感触、襖から漏れる薄明かり、中庭で揺れる木々の音、何もせずに何時間でもゆったりしていられそうな穏やかな空気が、そこには満ち溢れています。そして多くの人がこういった町家ステイを楽しむことが、京都の歴史ある街並みを残す手助けにもなっているのです。次の京都旅行、この町家滞在を選んでみてはいかがでしょうか。いくつかのお部屋をご紹介します。

◎和泉屋町

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リピーターが多いという鴨川を臨むこの町家は、明治時代には商人たちが憩う宿でした。1階は天井が低いので圧迫感を減らすために床を下げてリビング空間に修復。やや反り気味の2階の天井はオリジナルのままで歴史を感じられます。浴室は蒔き風呂で庭が見えます。室内デザインは夕暮れ時の薄明かりが美しい、陰影礼賛を意識したもの。

◎美濃屋町

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路地を抜け家屋にあがると、正面に眩しい鴨川の水面と清水寺の塔。振り向けば緑したたる中庭、回廊。北山杉の茶室を備えた心癒すしつらえ。ここは代々の医家の住まいだったという町家です。1階はリビングと一体となったテラスから、2階は広々とした和室から、鴨川の四季をたっぷり楽しめます。朝日もことのほか美しいそう。

◎三坊西洞院

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数寄屋風の離れの二階に明かり取りの大きな窓がある独特の佇まいは、絵をたしなむ主が家業であった刺繍の工房をアトリエに変えたもの。かつては作家、画家、多彩な客人が集まった場所だったそう。宇治の抹茶で名高い丸久小山園の茶房が、この町家の母屋の一階に。町家に泊まった翌朝はこの茶房でゆったり、香りの高い薄葉ごはんを味わうこともできます。

◎筋屋町

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築百四十年を経てなお頼もしい柱梁。機能美すら感じさせるつくりこの町家は、丹波の豆問屋の家族のくらしと家業を支えてきました。黒漆喰の土間、内玄関から客間越しに見える庭、高い吹き抜け。外からは想像がつかないほどに広々とした内部空間の2階にはベッドルーム。梁の見える屋根裏部屋もあり、意外な表情を楽しめる町家です。

●庵IORI町家ステイ
京都市下京区富小路通仏光寺下ル筋屋町144-6
Tel.075-352-0211
http://www.kyoto-machiya.com/
11軒の町家詳細についてはこちらをご参照ください。