新潟県魚沼と聞けば誰もが美味しいお米を連想するでしょう。特に最良質のコシヒカリが採れる南魚沼は、魚野川の東側の越後山脈から清流が流れ込む恵み豊かな土地。訪れれば、そこが美食の宝庫であることが実感できます。この南魚沼の大沢山温泉の古い旅館をモダンに改築し、2014年にオープンした『里山十帖』は、絶景の天然露天風呂やデザイン家具など、数々の魅力的要素があり、グッドデザイン賞を受賞するなど話題を呼んでいます。
古民家を改築した和モダンな空間も人気。ウェグナーやイームズの椅子、トルコの手織りの絨毯など家具のセレクトも定評があり、露天風呂付きなど部屋のタイプもさまざまです。
とりわけ特筆したいのは、天然湧水を使ったこだわりの料理。ここでは、春は山菜、夏は野菜、秋はキノコや菊、芋茎、冬は貯蔵して塩漬けにしていた山独活やぜんまいを戻したものや、蓮根、大根、蕪などの根菜類というように、旬の素材を、その滋味を最大限に生かした調理方法で供されます。
旬の素材が美味しくいただける素朴だけど彩りの美しい料理。眺めるのも楽しい食事の時間に。
春夏秋冬それぞれの時期に訪れれば、季節毎に変わるメニューを毎回堪能できます。たとえば冬から春先にかけて人気なのは「ブリしゃぶ」。ここでは佐渡から取り寄せた丸ごと一本のブリを、裏庭の雪室で熟成しています。旨みたっぷりのブリは刺身で食べても美味ですが、しゃぶしゃぶのだしは、地酒の「鶴齢」あるいは「八海山」を煮切ったものと昆布だしのブレンド。酒の旨みがブリに移って、こちらも極上の味わいを楽しめます。土鍋で焚きあげられたお米が美味しいのは、言うまでもありません。
冬から春先に人気の「ブリしゃぶ」。炊き立ての美味しいコシヒカリももちろん地元の米農家から厳選しています。
雪国ならではの製法、雪下保存で作られた甘味の増した人参や、かぐら南蛮、長岡丸茄子、大崎菜など地元の伝統野菜を多用しつつ、さらには素材の味を生かすための調味料も厳選しています。例えば味噌は信州の蔵で2年熟成させたもの、塩は青ヶ島で地熱で焚いたもの、醤油は信州大久保醸造の薄口、酢は純米酒から醸造した富士酢、油は米を圧搾した米油など、各地の伝統調味料を使用。美味しくて安全ということに、とことんこだわり、いずれの素材も生産地や生産者を明確に知ることができます。
野菜を中心としたシンプルな和朝食。朝からいっぱい食べてもお腹がもたれません。
これらの料理が味わえる館内の食事処は、田植え後に豊作を祈り、田植えに協力してくれた人々をもてなす酒宴の名でもある『早苗饗』と名付けられ、宿泊客でなくても利用できます。
『里山十帖』のオーナー岩佐十良さんは、雑誌「自遊人」の編集長でもあり、東京出身の編集者ながら、十数年前に魚沼に移り住み、現在は雑誌編集と米作りと旅館経営を同時に行っているという異色の人物。昨今はさまざまなメディアで岩佐さんの活躍は注目されていますが、ここは食の大切さを訴え続ける岩佐さんの理念が実感できる場所でもあるのです。
東京から新幹線で1時間20分の越後湯沢駅からタクシーで15分ほど。泊まって楽しむのが一番ですが、東京からなら日帰りも可。日本の自然を身体の外側と内側から満喫して、ヘルシーな快感に浸りたいと思ったなら、是非一度ここを訪れて、ここでしか味わえない天然の滋味を堪能してみてください。周辺の野山を散策するのも気持ちいいですよ!
食事を楽しんだ後は人工物が一切目に入らない絶景を堪能できる露天風呂へ。こちらは宿泊者だけが味わえる特権。
●里山十帖
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All photos by Satoyamajujo