数年前に見つけた1枚のポストカードが私の中で強く印象に残っている。馬に跨がる勇ましいネイティブアメリカンが、果てしなく続く広大な大地に立っているポストカードだった。辺りには、いくつもの巨大な岩山がそびえ立ち、そのネイティブアメリカンの凛々しい姿が、なぜか心に強く焼き付いた。それ以来、ずっとココへ訪れてみたいと思っていた。その場所がユタ州とアリゾナ州にまたがるモニュメントバレー(Monument Valley)だと知り、次の旅の行き先はココだと決めていた。
コロラドから南西へ車を走らせること約9時間。山脈はなくなり、当りに広がる景色はすっかりアメリカのウエスタン映画の世界。強く照りつける太陽、乾いた風、赤茶色の大地がどこまでも続く。突如、前方に現れた不思議な形をした大きな岩山の数々。これがモニュメントバレーだ。
風と雨、そして気温がもたらす自然の力が5000万年以上もの時間をかけて高地の表面を切り取り、削ぎ落し続けていく。広大な砂漠の中に取り残されたメサ(Mesa)と呼ばれるテーブル状の台地や、メサの侵食がさらに進んで細くなったビュート(Butte)と呼ばれる岩山が点在して、まるで様々な形の記念碑(Monument)が並んでいるように見える。
モニュメントバレーは、ナバホトライバルパークと呼ばれ、ネイティブアメリカンのナバホ族の聖地であり、今も彼らの生活の地でもある。ナバホ族の多くは近代的な生活をしているが、パーク内では、電気や水道もない伝統的な生活を今でも続ける人々もいる。
モニュメントバレーに辿り着くと、真っ先に視界に飛び込んでくるのが、ミトンビュート(Mitten Buttes)とメリックビュート(Merrick Butte)という大きな岩山。確かに右手と左手のミトンの形をしている、印象的なビュートだ。
パーク内は、その他にもおもしろい形をしたビュートが様々ある。一部はナバホの人々が運営するツアーでのみ見学できるエリアがあるが、ほとんどが一般的に観光を許可されているオフロードを車で自由に行き来できる。
トーテムポールやスリーシスターズ、ジョンフォードポイントなどと名付けられた様々なビュートの景色を眺めていると、大自然の神秘が、人間の手では決して造ることの出来ない壮大なアートを創り出しているように思える。悠久の時間を経て大地が創り出す素晴らしい奇跡に、ただ圧倒されてしまう。
宿泊は、かつてネイティブアメリカンが暮らしていた円すい形のテント、ティピ(Tipi)で、夜明けと夕暮れの特別な時間を過ごす。ティピからの眺めは、モニュメントバレーを見渡せる大パノラマだ。特に朝日があたり始める瞬間や夕暮れの光がビュートにあたり作り出す光景は、言葉にならないほど美しい。1秒ごとに色を変え、形を変えてゆくビュートに、ただただ目を奪われるだけだ。夜は空気が澄んでいて、周辺には灯りもないので満天の星空を楽しめる。そして月明かりで浮き出るビュートの姿もまた魅力的な景色。
このモニュメントバレーで過ごす時間はどこか神秘的な魅力にあふれている。アメリカという国がつくられる遥か昔からこの地に住んでいたネイティブアメリカンと自然との静かな歴史が刻まれている。そしてここには、そんな人類の歴史よりもさらに遥か昔に起こった大地の歴史を感じることのできる景色が広がっている。
次回はアリゾナ州、ナバホトライバルパーク、アンティロープキャニオンへ。