2月11日から21日まで、10日間の開催だった66回目のベルリン映画祭。今年はコンペの審査員長がメリル・ストリープ。金熊賞はイタリア人監督ジャンフランコ・ロージが難民問題を描いた『Fuocoammare』が受賞、今の欧州を映し出すドキュメンターリー映画の受賞だった。一貫して社会性のある作品が多く、ベルリンらしい選出だと感じた。
コンペの出展はなかったものの、日本からも多くの作品上映が続いた。若手のフォーラム部門では80年代の8ミリ映画のシリーズが連日上映となり、日本映画ファンを楽しませていた。また、松竹が小津安二郎監督『麦秋』の4Kデジタル復刻版のワールドプレミエ上映を行った。OZU映画はベルリンで絶大的人気で早々にチケットはソールドアウト、開場前から長蛇の列ができる盛況ぶりだった。
Hanno Lentz © Majestic 映画関係者だけでなく、一般の人も多くの映画を見ることができるのがベルリン映画祭の最大の魅力。
優れたドキュメンタリー映画が多かった中で、いわゆる劇画で個人的に心に残った作品が、ドイツ人監督ドリス・デリエの『Fukushima, mon Amour』だ。親日家として知られるデリエ監督は2008年に小津安二郎監督の『東京物語』に影響を受けて〈HANAMI〉を発表。この映画はドイツ映画賞銀賞を受賞、日本でも公開されている。
Mathias Bothor © Majestic 左から挿入歌を歌い、映画にもボランディア役で出演した歌手の鎌田なみ、ドリス・デリエ監督、女優のロザリー・トマス
『Fukushima, mon Amour』の舞台は福島。南相馬市で撮影は3週間かけて行われた。元芸者さとみ(桃井かおり)と、結婚破談でやり場がなく、ドイツからボランティアで福島の慰問グループを訪れた若い女性マリー(ロザリー・トマス)の友情の物語。仮設住宅の生活に嫌気がさしたさとみが自宅にもどり、マリーが加わり、心に傷を持った2人の奇妙な共同生活がはじまる。2つの文化の相違点からぶつかり合う2人だが、さとみがお茶の飲み方など作法を教えたりすることで言葉を超えたコミュニケーションが育まれていく。「ラディエーション(放射能)バケーションに行きましょう!」とさとみがマリーを誘うシーンでは会場から笑いが起こった。不謹慎なのかもしれないが、どうしようも無い、取りつく島のない時の笑いって救われる気がした。
ドリス・デリエは撮影前に東京を訪れた際、桃井かおりに出演を打診。桃井さん自身から「自分の本当の年くらいの役を演じたい」とデリエに出演の承諾をしたという。役柄に関しても事前のリサーチで何人もの日本人女性へインタビューをして役柄を作り上げていったそうだ。3週間という長い期間、わざわざ南相馬に来てくれたことに地元の人たちは撮影チームをとても暖かく迎えてくれたと語っていた。
映画祭パノラマ部門において質の高い芸術作品に贈られる国際アートシアター連盟賞、また社会的、政治的テーマを扱った優れたドイツ映画に贈られる「ハイナー・カーロウ賞」も受賞したこの映画が、日本で配給になるかは現時点ではまだ決まっていない。そもそもドイツで原発の廃炉が決まったのも福島での事故があったから。日本だけの問題でない、忘れてはいけない出来事と語るデリエ監督。この3月11日で震災から5年が経っている。是非、海外からの視点も国内の方に見ていただきたいところだ。
●ベルリン映画祭のウエブサイト
http://www.berlinale.de/en/HomePage.html