Berlin:ベルリン
2016-07-04
ヴェネチア建築ビエンナーレにて、社会から建築を考える

イタリアであったプレスツアーの帰りにヴェネチアの建築ビエンナーレを訪れた。6月末のものすごい猛暑の日曜日。観光客でごった返すヴェネチアの街中に比べ、ジャルディーニとアーゼナルの両メイン会場は広々としたスペースで少しホッとさせられる。

1光のインスタレーション/地元のエネルギーを使ってサステナブルな環境を作るミュンヘンのエンジニアリング集団によるトランスソーラー。http://www.transsolar.com/de

2年に一度行われる第15回目の建築ビエンナーレ2016年のタイトルは「Reporting from the front(最前線からのレポート)」。62カ国が参加する展示のキューレターは、2016年のプリッカー賞(建築界のノーベル賞)受賞者でもあるチリ人建築家アレハンドロ・アラヴェナ。

「パタゴニア」(1977)の著者、ブルース・チャトウィンが南米を旅行中に砂漠で遭遇し、アルミの梯子に登っているドイツ人考古学者マリア・ライヒェを撮影した写真が今回の基本テーマだ。

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ブルース・チャトウィンによるマリア・ライヒの写真、ライヒはペルーの切手にもなった偉大な考古学者だ。

ライヒェはナスカ地上絵の研究者。飛行機を飛ばしたり、トラックやジープを雇ってリサーチもできただろうが、彼女は自分の足で歩き、梯子の上から広大な砂漠を眺める独自の方法を選択した。この行動力や想像力、チャレンジが、これからの建築にとって必要なのだとアラヴェナは主張している。

建築は最もお金のかかる芸術表現ではあるが、すべての人にとって共通の関心ごと。今回の展示は建築美よりも、建築から社会を考えるスケールの大きな展示で、世界のインフラや各地の都市計画の成功例などが発表されている。

4建築の技術がなくても地元で調達できるレンガと木材で建物は出来るという例。スイス人建築家クリスチャン・ケレーツのブラジル、サンパウロのコロンボ公園、貧民街のプロジェクト。

各国のパビリオンのプレゼンテーションも、オランダが国連のマリでの活動を発表したり、フィンランドは難民対策の国内コンペをそのまま展示している。難民問題が深刻化するドイツでも、ドイツ館の既存の壁を開き「ドイツはオープンな国ですよ」とアピールしている。

5ドイツ館。右手の壁を壊し、緑の枠の出入り口は外から誰でもが入れるオープンなパビリオン。ドイツが難民受け入れにポジティなことをアピールしている。全土の各都市でも外国から移民の多い地区がフューチャーされていた。

日本人若手建築家の数々のプロジェクトを集め、人や地域の「en(縁)」を発表した日本館は国別参加部門での特別表彰となった。

6日本館。en(縁)の展示は、シェアハウスや、どれだけ人が空間を共有できるかが問われている。古くから狭い空間を共有することに慣れている日本だが、現代の若手建築家の新しい発想が新鮮に受け取られたようだ。

空間と社会を分かち合うための建築。建築ビエンナーレが革新的に社会と向き合う展示をここまで徹底して行ったのは、キュレーターとオーガナイザー、参加者の意識の高さだったと思う。この日ミラノに戻り、イタリア人の友人とビエンナーレの感想を語りあった。実はヴェニスの街の建物は歴史的建造物のため、改築にはお金がかかるそうだが、助成などがないため代々家を継いでいる人は生活には便利な隣町のメストレに住んでいるという話を聞きいた。建築は誰もが批判や話題にできる身近なものと感じさせられる1日だった。

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●ヴェネチア建築ビエンナーレ(11月27日まで)
http://www.labiennale.org/en/architecture/