写真家の大森克己さんが龍安寺を撮った作品が『世界の庭』というタイトルのアート展に出展されていると聞いたので、スイスでの取材の帰りに、チューリッヒのミュージアム・リートベルクに寄りました。アジア、アフリカ、アメリカ、オセアニアのアートを専門とするこの美術館は、小高い丘の上にある歴史的な邸宅を改築した建物で、1952年から常に質の高い展示を行っています。

Gartenplan aus dem Grab des Sennefer,Ägypten, ca. 1400 v. Chr.Zeichnung von Ippolito Rosellini, 1834 © Universitätsbibliothek Heidelberg

ガラス張りのエントランスを入ると、地下部分に展示スペースがあります。日曜日の午後、本当にたくさんの人がこの美術館に訪れていました。庭というのは東西問わず、どんなところに住んでいても、多くの人が興味を持つ対象なんだな～ということを実感。

展示はアダムとイブのいるパラダイスからスタート。ヨーロッパの中世からロマン派の時代の有名な庭、そしてイスラム圏、インド、日本や中国と、まさに世界各地の庭を紹介しています。

Adam und Eva,Albrecht Dürer (1471–1528), 1504,Kupferstich © Graphische Sammlung ETH Zürich

Kachelpanel mit Gartenszene,Iran, erstes Viertel 17. Jh.Quarzfrittekeramik,Cuerda-seca-Technik© bpk / The Metropolitan Museum of Art

ちょうど何年か前にドイツ人建築家の方とともに訪れた、ベルリン郊外ブランデンブルク州のブラニッツ城の公園も紹介されていました。そこはイギリスのガーデニングから影響を受けたプックラー・ムスカウ王子が設計したエキセントリックな公園です。ヨーロッパの中でも、やはりイギリスの庭というのは憧れの対象なのかもしれないと今回再確認。

この展覧会の面白いところは、庭の紹介、歴史的なドキュメントの他に、「庭」という切り口でさまざまなアーティストの作品を紹介しているところ。クロード・モネの水彩画。喜多川歌麿の浮世絵。大森さんが撮った龍安寺は、枯山水の石庭にあるすべてのことがらを日常の風景から捉えた作品。中国人現代美術家アイ・ウェイウェイは、18世紀に作られた北京郊外にある皇帝の夏の離宮の庭にあった干支の動物の頭像をゴールドで再現。ドイツ人のヴォルフガング・ライプの黄色い花粉のインスタレーションは初めて実物を見て、とても印象的でした。それ以外にはアメリカ人現代作曲家ジョン・ケージのスケッチなども。

Wespe und Haarraupe auf Pfeilwurzpflanze, Aus dem Insektenbuch von Kitagawa Utamaro, 1788　Farbholzschnitt © Museum für Asiatische Kunst, Fotografie: Jürgen Liepe

また、ここには民族博物館としても大変素敵なコレクションがあり、そちらも見応えあり。もう一つの企画展は「ダダとアフリカ」という、アフリカ文化がダダに与えた影響という切り口での展示。こちらも奥が深くおすすめです。

ミュージアムショップではガーデニングのためのシャベルや鉢植えが販売されていたり、外に出ると敷地内でハーブも売ってもいました。

このミュージアムを囲むリーターパークは67万平米と驚くほど広く、子供がボール遊びできる広い芝生や砂場、一角にはテニスコートまであります。少し起伏があり、石像や彫刻も点在していて、散歩にはぴったりだし、美術館に行きたくない子供は芝生で遊んでいてもいい。公園は入場無料なので、友達や家族とピクニックを楽しんでいる人々も目にしました。

ちょうどライラックやマロニエの花が咲き出した頃。高台にあるのでチューリッヒ湖が眺められました。もう少しお天気が良かったら、アルプスの山々も見えるそうです。アートを楽しみ、また自然にも触れられる環境です。

ドイツ同様、スイスも大都市のチューリッヒでさえ、日曜日はスーパーやデパート、レストランやカフェの多くが閉まっています。でも、こんな素敵なミュージアムと公園で、日曜日を過ごすことができたのは嬉しかった。とても豊かな気持ちになった週末でした。

●リートベルク美術館Museum Rietberg
『Gardens of the World（世界の庭）』展覧会は10月9日まで。
http://www.rietberg.ch/en-gb/home.aspx