ベルリン、ヴァイセンザー美術アカデミー(以下KHB)卒業生の森朋子さんがミュンスターで個展を行っている知り、会期ギリギリの7月の週末に作品を見に行かせていただいた。森さんとは共に親が大分出身ということで、昨年、KHBとのプロジェクトが縁で知り合った。今年はベルリンのギャラリーでも展示があり、頑張っている若手作家だ。
展示会場のペインテング作品に加え、シルバーの波のようなインスタレーションも森さんの仕事だ。
ミュンスターはデュッセルドルフの北にある中世以前からの歴史のある街で、欧州では特に17世紀のカトリックとプロテスタントの宗教戦争だった30年戦争の終結条約、ウエストフェリア条約が結ばれた街として知られる。第二次世界大戦で街は多くのドイツの都市同様、瓦礫の山と化したが、大聖堂を始め戦後は復興。現在は学生の多い、文化度の高い豊かな街となっている。
若い学生が多く、週末は特に活気のあるミュンスター。街中でアンブレラのインスタレーションを見かけた。来年は10年に一度のアート・プロジェクト「スカルプトア・ポリエクト」開催で世界中からも人が集まりそう。
森さんの展示はウエストフェリア美術館内のアートクラブが企画する、若いキュレーターが作家の選出から展示のオーガナイズまでを完全に行うというプロジェクトの中で行われたもの。若手キュレーターが、まだ有名ではない若手の作家を探してくるという企画は、とてもポジティブに感じられる。キュレーターのマライケ・ルコヴィッツさんは、毎年ベルリンのノイケルン地区で行われる賑やかなアート企画展「48stunden Neukölln」で森さんの作品と出会い、彼女に展示を薦めたという。
森さんとベルリン出身のキュレーター、マライケ・ルコヴィッツさん。
抽象的なランドスケープや、様々なマテリアルを使った彼女の作品は、偶然性やカオスが共存するものらしいが、自由な解釈のできるオープンな作品だと思う。タイトルは「Ostkreuz—Hikkaduwa」。実はミュンスターの展示準備中にカード詐欺に遭い、40万円を知らない間に引き出されていた事があった。あとからスリランカのHIKKADUWAというビーチのある観光地から引き出されていたという事が分かり支払いをしなくて済んだという件からつけたタイトル。予想外の事が起こって、日常から世界が一瞬、歪むような感覚を絵画上でも表現出来たらという願いからきているという。
会期中に行われたアーティスト・トーク。地元のアートに関心のある人たちも集まり、熱心に話に耳を傾けていた。森さん、ルコヴィッツさんの間にいるのが、地元ヴェストファーレン・アートクラブ所属のキュレーター、ジェニー・ヘンケさん。プロジェクト自体を運営する気さくで仕事の早い女性。Photos by LWL/Hanna Neander
アーティストの多いベルリンで美術家として続けていくのはなかなか大変かと思うけれど、こうしてキャリアを高めていくことは素晴らしいと思う。マライケさんは「アートは入場者数で捉われがちですけど、質の良し悪しとは関係ない」と、大都市でなくても、ミュンスターで自分が良いと思える企画ができるのは嬉しいと語る。
ミュージアムのメインホールにつながるアプローチに面したガラス張り部分の展示で通りがかりの人も立ち止まって見ていた。Photo by LWL/Hanna Neander
来年はミュンスターで10年に一度の「スカルプトア・ポリエクト」展が6月から市内で展開される。ウエストフェリア美術館が中心となって企画が進んでいるそうで、2017年は待望の年となりそうだ。
LWL Museumウエストフェリア美術館は1908年築の本館に加え、2014年に新館部分が増築された。中世から現代コレクションまで幅広いアートと美術史、文化史を楽しめる。
●LWL Museum ウエストフェリア美術館
https://www.lwl.org/LWL/Kultur/museumkunstkultur/
●skulptur projekte münsterスカルプトア・ポリエクト・ミュンスター
https://www.skulptur-projekte.de/#/