Shanghai:上海
2015-11-05
魔都上海のワインセラーで晩餐

里弄(リーロン)と呼ばれる上海の古い住宅街の路地は、入口からは想像できない奥行きがあって、ちょっとした迷路のような雰囲気です。4年前、旧フランス租界の五原路という通りをなんとはなしに歩いていた私は、ふと路地の奥に何かがあるような気がして里弄の入口を進んでいきました。

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突き当たりを曲がったところに、果たして住宅とは別棟の建物が。かつての防空壕で、1階がオフィス、地下をポルトガルワインのセラーに改装してありました。

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建物の持ち主はポルトガルワインの販売事業を手掛けている上海人の張さん。元々は法律の専門家で、ポルトガル領だったマカオが中国に返還される際に法律顧問としてマカオに赴任しました。それ以来ワインに魅せられ、上海随一のポルトガルワインのコレクターに。ポートワインやマディラワインの年代物のコレクションもあります。

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現在、ワインの大部分は別のセラーに移され、地下は応接スペースがメインになりましたが、随所にワインボトルやアンティークが置かれた広い空間は秘密の基地のような雰囲気です。

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先日、張さんと久しぶりに会った際、地下での夕食会に招かれました。毎回趣向が異なるのですが、今回はイタリア料理と上海料理の饗宴。張さんがオーナーとして、今年五原路に開いたイタリアンレストランから運ばれてくる生ハムや窯焼きピザのほか、上海料理の名店からデリバリーした蒸し鶏、上海麩、酔蟹(酔っ払い蟹)などが並びます。ワインはVan Zellersという名前の白ワインとQuita do Judeuの赤ワイン。中国と西欧の食文化の組み合わせの妙を前に、ここがかつて租界地であり、魔都と呼ばれた街でもあることを思い起こしました。

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酔っ払い蟹は生の蟹を黄酒につけたものが一般的ですが、この晩は火を通した蟹を使った「熟酔蟹(シューズイシエ)」。上海蟹は秋が深くなるほど旨味が増し、今がまさに旬。濃厚な香りのポルトガルワインとあわせたときの官能的な美味しさに、もう黙るしかありません。張さんの愛犬であるシー・ズーの小白が気ままにやってきては、メンバーの一員として食事に参加。熟酔蟹、ポルトガルワイン、生ハム、防空壕、マカオ、シー・ズー。一体私はどこで何をしているのだろうと、夢見心地に酔いが回ってきます。

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ここ最近、五原路沿いには洗練されたレストランやバーが増え、注目を集める通りになってきました。里弄の入口周辺もきれいに整備されています。それでもやはり、奥へ行ってみないと本当の面白さはわからない。魔都上海の残り香は、外からは簡単に見えないところに濃厚に漂っているのです。

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