蘇州に住む友人から誘われて、急遽、翌日にランチをしに行くことにしました。梅雨で終日雨の予報でしたが、善は急げ。上海から蘇州までは高速鉄道に乗れば30分もかかりません。東京から熱海へ行くくらいの感覚でしょうか。
蘇州の中でも今回は初めて「蘇州工業園区」というエリアを訪れました。シンガポールの資本が入った経済開発地区です。旧市街の東に位置し、金鶏湖のほとりに商業ビルやアートセンターなどが立ち並びます。
ランチの場所は、このエリアに立つラグジュアリーホテル「ハイアットリージェンシー蘇州」のレストラン『華池88』。シェフのオスカー・ワンさんは地元の出身。江南料理のほか、フルーツの木の薪を使って焼く北京ダックも人気のレストランですが、この日はワンシェフによる蘇州ならではの料理を出してもらいました。
蘇州の代表的な料理といえば、揚げた桂魚に甘酢あんをかけた「松鼠桂魚」が中国では全国的に有名です。しかし、シェフのシグネチャーディッシュとして出てきたのは、揚げた桂魚に桃のジュレソースをつけて味わう「陽澄湖手撕桂魚」という一品。桃の花は蘇州を象徴する花の一つ。桂魚の上には碧螺春(ビールオチュン)という蘇州特産の緑茶の茶葉、ジャスミン、クワイのチップスなどがのせられ、香りが幾層にも広がります。
鮮やかな紅色の腐乳(豆腐を発酵させたもの)を使った鴨肉の前菜や、江南牛の煮込み、碧螺春と川エビを炒めた一皿も印象的でした。スイーツはバラのジャムを挟んだ中華風ケーキと、美容にいいといわれる雪蓮籽の羹。上海の蘇州料理店でもなかなか食べられない、優美で個性のある地元の料理を堪能しました。
ホテルの近くにある「誠品生活蘇州」にも寄りました。台湾発の有名書店「誠品書店」が入ったビルです。中国大陸の第1号店として昨年末にオープンし、蘇州で今一番の話題のスポット。書店のほかに洗練されたファッションやインテリアのテナント、飲食店、イベントスペースを備え、蘇州の暮らしも都市化が進んでいるのだと実感しました。
書店には日本の書籍などの翻訳本や輸入本が多数。同時に、蘇東坡や白居易といったこの地にゆかりのある文士の作品も多く取り揃えています。蘇州の歴史や文化に関する本も充実し、思わず買い込んでしまいました。
帰りの電車までの残りの時間、旧市街にも足を延ばして古い建築が並ぶ平江路という通りを歩きました。運河沿いに柳がしなだれ、ザクロの木の橙色の花が雨に霞み、しっとりとした情緒が漂います。
思えばここはかつての都。呉服が生まれた呉の国であり、江南様式の庭園をはじめ芸術や文物が深く愛されてきた地。ビルが建っても、人々の生活が変わっても、優雅な文化の魂は今もそこかしこに息づいている。そんなことを感じた半日あまりのショートトリップでした。
●Hyatt Regency Suzhou 蘇州凱悦酒店
蘇州市工業園区華池街88号
http://suzhou.regency.hyatt.com
●誠品生活蘇州
蘇州市工業園区月廊街8号
http://www.esliteliving.com