上海には日本の旅や生活文化を専門に紹介する「行楽」という雑誌があります。スタッフはほぼ全員中国人。昨年、日本通でもある社長の袁静さんと知り合った際、「風呂敷をテーマに特集の編集をしてもらえませんか?」と頼まれました。え、風呂敷?
「日本の風呂敷って、今の上海の人に響くと思うんです。贈り物をどうやってきれいに包むのかに興味があるし、最近はエコも注目されているから」と、袁さん。風呂敷を使ったことなんてあったかなあ……という感じの私は、一から勉強することに。取材や資料を通して結び方や特徴を学びつつ、撮影日に向けて猛練習。アイロンをかけつつ、片っ端から物を包んだりほどいたりしているうちに、実は使い方がとてもシンプルで、基本さえおさえれば幅広く応用がきくことがわかってきました。そして出来上がったのは20ページの大特集。中国の媒体で初めての風呂敷特集だそうです。
風呂敷という言葉は日本で生まれたもので、中国人にとっての「フォンリュイフー(風呂敷)」という響きには伝統という先入観がありません。誌面では日本から取り寄せたモダンなデザインのものをメインに使い、包む中身も大きなケーキボックスやフルーツバスケット、花束、シャンパン、それから折り畳み傘に水筒と、上海の贈り物や日常生活の定番アイテムをセレクト。現代のライフスタイルに合う使い方を提案していきました。
発売後、思っていた以上の反響がありました。雑誌を見た中国茶のブランドから声がかかり、顧客に向けてお茶の箱などを包む実演を頼まれたり、食の専門誌でもラッピングの連載企画につながったり。
さらに特集から一年が経った先日、「行楽」と日本企業が上海と北京で開催したイベントに呼ばれました。女性の読者を対象に日本文化を紹介するというイベントで、来場者は抽選で限定しても両会場あわせて200人以上!私はプログラムの一つである風呂敷の体験レクチャーを担当。みんなとても熱心で、参加者の中には風呂敷を使ったバッグを持参してきた人もいて、驚いてしまいました。
中国にも本来は包袱(バオフー)という物を包むための布があります。ただ、包み方が確立されているわけではなく、今はほとんど使われていません。だからこそ、精緻なデザインが施され、様々な包み方が研究されている日本のフォンリュイフーが注目されるのかもしれません。繰り返し使えるエコなイメージも時代に合っています。
私も特集以来、旅の荷物の整理をするのに風呂敷を使うようになりました。風呂敷を古くて難しいものだと思い込んでいたのは日本人の私のほうで、現代の生活になじむ身近なテキスタイルであることを、中国の人から気づかせてもらったように思います。