『ブロケード・カントリー(Brocade Country)』は訪れるたびに、心が温かくなる気持ちがするショップです。ミャオ族を中心に、中国の少数民族の伝統的なファッションアイテムや雑貨を扱っています。
©JIJUN PHOTOGRAPHY
オーナーは中国南西部・貴州省から来たミャオ族の姉妹、劉暁蘭(リュウ・シャオラン)さんと鴻雁(ホンイェン)さん。英語が堪能なお姉さんと、日本語が上手な妹のコンビです。暁蘭さんは以前、外国人向けにシルクロードのツアーガイドの仕事をしていました。新疆の民族の文化を案内するうちに自分たちミャオ族の文化も伝えたいと思い、妹の鴻雁さんを上海に呼び寄せてこのお店を開いたそうです。2004年にオープンしてから12年。現在、子育てに忙しい暁蘭さんはサポート役にまわり、鴻雁さんがお店を切り盛りしています。
店名にある「Brocade」とは豪華な厚地の織物生地のこと。店内には色鮮やかな錦の織物やろうけつ染めの布地のほか、ミャオ族の民族衣装であるプリーツスカートや刺繍入りの布ベルト、伝統工芸のシルバーアクセサリーなどが豊富に揃います。
商品の多くは貴州省の村で買い付けたものや特注したもの。加えて、鴻雁さん自身が手作りした商品もあります。刺繍を施したアクセサリーやアンティークの刺繍を使ってリメイクしたバッグなど、どれも手が込んでいますが、「学校で専門的に習ったわけではないんです」とのこと。「子どものときから母や祖母と一緒に刺繍や裁縫をするなかで身に着けました。ミャオ族でも今の若い人はあまりやりませんが、私はとても好きなんです」
陰陽模様を表しているという二匹の魚をはじめ、鳥、花、蝶。店内を見て回ると、刺繍や布地に描かれた動植物の力強い美しさに圧倒されます。また、驚くほど細かな意匠を凝らしたシルバーアクセサリーにも目を奪われます。すべて手作業でつくられた純銀のブローチやピアスは、心に訴えかけてくるようなパワーがあります。
スカートを見ていたら、裾のあたりに織り込まれた幾何学模様のような柄に目が留まりました。「それは地図を表した模様です」と、鴻雁さん。「その昔、ミャオ族が自分たちの故郷を忘れないようにするために生み出した伝統的な模様なんですよ」
ミャオ族は元々文字を持たない民族だったため、歌などの口頭伝承のほか、服飾に描いた絵や模様で自分たちの歴史や文化を伝え残してきたそうです。動植物のモチーフや幾何学模様にも迫力ある美しさを感じるのは、自分たちのことを伝えていこうという強い思いから生まれたデザインだからかもしれません。
私は8年前に取材で貴州省の少数民族の村を巡ったことがあります。いくつも連なる背の低い山々、高床式の木造建築、古歌を歌う村人たち、簡素な仕事場で作業していた銀細工職人。このお店を訪れるたびに、あの遠い村々の景色が蘇ってきます。
以前はお客さんのほとんどが外国人だったそうですが、ここ数年で中国人のお客さんが増えているとのこと。中国の人たちも自分たちの国の文化に目を向け始めているのです。中国語と英語と日本語を駆使しながら、上海を拠点に少数民族の文化を広く伝えていく。こういうお店の存在が、上海を温かく、魅力ある街にしているように思います。
©JIJUN PHOTOGRAPHY
●Brocade Country
上海市静安区巨鹿路616号
Tel:021-6279-2677