First day of Autumnも過ぎ、すっかり秋模様のコロラド。澄みきった青空に浮かぶイワシ雲を眺めると、山の紅葉はもうすぐそこまでやってきている。先日、以前より気になっていたアメリカ人アーティスト、デボラ・バターフィールドによる彫刻展「The Nature Of Horses」を見に、デンバー植物園へ行ってきた。この時期、植物園は色とりどり秋の花が一面を埋め尽くす。そんな花を眺めながら庭園内をゆっくりと散歩するのが、この季節はとても気持ち良い。
ここでは毎年、様々なアーティストたちが庭園の美しい自然と絡めて展示会を開催している。やはり今回も、デボラ・バターフィールドのダイナミックで繊細な馬の彫刻が庭園の草木や花々と見事にコラボレーションする展示だった。
Argus
デボラ・バターフィールド(Deborah Butterfield)は、サンディエゴで生まれ育ち、カリフォルニア州とメイン州で絵画と彫刻を学んでいる。独自の感性で表現される彫刻は、1979年のホイットニー・ビエンナーレで一躍注目を浴び、アメリカおよびヨーロッパのアートシーンで主に活躍。現在は、モンタナ州ボーズマンの牧場とハワイのスタジオに生活をおき、常に馬がそばにいるライフスタイルをおくっている。馬の彫刻しか作らないという彼女と馬のつながりは、とても深い。「幼い頃の記憶には、すでに馬は近くにいた」と言うバターフィールド。馬をこよなく愛し、それを表現するからこそ、彼女の彫刻はどれも繊細な優しさに満ちているように感じる。そして作品となった彫刻には、彼女自身の馬の名前が題名としてつけられている。
モンタナの牧場にて。写真はDeborah Butterfield提供
自然の中で静かに佇む馬や寝そべる馬の作品を眺めていると、馬の躍動感というより、平穏な雰囲気の方がとても強く伝わってくる。「本来の馬は私が作ろうとする馬よりもずっと激しい動きをするけれど、私が表現する馬は絵画的とも言えるほど静か」とバターフィールド自身も語っている。
Sliver Bow & Cascade
一瞬、枯木のように見える材料だが、実はブロンズやメタルを断片的に組み合わせて作り、朽ちた木のようなテクスチャーに仕上げている。ハワイの森で見つけた枯木を拾い集め、それらをモデルにすると、モデルとなった枯木のように鋳造されたブロンズが材料となる。そんな硬質な素材とは対照的に表現される作品たちは、不思議なほどしなやかで柔らかい。
Whitebark
そして馬それぞれの個性もみえる。馬を知り尽くしているバターフィールドだからこそ表現できる、愛情に満ちた作品の数々。今にも動き出しそうな馬のポーズや、物静かで時に悲しげにも見える馬の表情は、私たちに何かを語りかけているようにも思える。街の喧噪を忘れて、吸い込まれるように彼女の彫刻に魅了されてしまう、そんな今回の展示会だった。