世界中が嫉妬する長いイタリアのバカンスを終え、街にもどったミラネーゼ達。当然ではあるが、彼らを毎年ドキっとさせるのは、すっかりと秋の衣装を纏った麗しいミラノの風景。時差ボケ状態の心身を一気にオンに切り替えらせるのだ。新生活スタートを告げる9月のミラノは盛りだくさん。街はミラノコレクションを筆頭にモードやアート、映画といった文化イベントの数々に大賑わい。ショーウィンドーの華やかさも手伝って、各国からの訪問客を瞬時とも飽きさせることはない。まさに”プレゼンテーションの街ミラノ ”を強く感じる時期、「さあ、私も着飾って出かけよう!」という気にさせられるのだ。
とはいえ、ミラネーゼの暮らしは決して表面的なのではない。感心させられるのは、彼らの内に向けた充実への関心だ。中でも、自らしさの表現と快適性の両者を求めた住空間づくりへのこだわりは計り知れない。ちょうど衣替えのこの時期、ミラネーゼの関心は、インテリアの衣替えにも向けられるのだ。カーテンを付け替え、ラグを倉庫からひっぱりだし、椅子や一人掛けソファはベルベッドや今シーズンらしい生地で張り替え、その生地でクッションも特注してしまおう!という具合。何しろ、街中にそんなオリジナルオーダーを実現してくれる、職人や昔ながらの工房が数多く残っているのだ。
さらに、そんなミラネーゼを刺激し、彼らのアイデンティティに応える、素晴らしいコンセプトストアも存在する。どこかで見たようなモノはない唯一無二のモノ、表面的でない本物のモノづくり、オリジナリティ溢れるアイディアに出逢える場所が人気だ。
例えば、今年4月に誕生した「Nilufar Depot」(ニルファ・デポ)。ミラノ屈指のデザインディーラーであるヤシャール女史が、30年に及び世界中からの蒐集した稀少なヴィンテージから現代におよぶ調度品がちりばめられている。
巨大な工場跡を改装した店内は、ミラノのスカラ座がインルピレーション源だ。中央を吹き抜けに、メタルで仕切られた小部屋が上階を構成。それぞれに歴史的デザインや職人技と、現代作品を調和させた印象的なコーナーを演出している。意巨匠ジオ・ポンティやアルビーノがかつて個人邸のために作り上げた普通には目にすることのできない作品から、気鋭マルティーノ・ガンペールによる幾何学的パターンが美しいダイニング家具や照明などが見事に共存。
意外な色彩や形状、スタイルの組み合わせ、決して古く感じさせない調度品のディスプレイ術などに刺激を受けると同時に、芸術、文化的視野を広げることができる場所だ。
また、もう1つ紹介したいのが、ファッションデザイナー、アントニオ・マラスによるコンセプトストア「Nonostante Marras」(ノノスタンテ・マラス)だ。整備工場跡を改装したここは、アーティスト、舞台美術家としても評価の高いマラスの世界観が凝縮されている。
彼のファッションはもちろん、店内に利用された調度品やオブジェ、ライブラリーに飾られた書籍類もすべて購入することができる。アート性と機能性の両者を備えた調度品の数々や、ユニークなディスプレイに何度も通いたくなる場所だ。さらに、毎月店内で行われる現代アートのエキジビションも必見。
ファッションもインテリアにおいても、伝統や文化と寄り添いながら、自分らしく今らしく楽しもうとするミラネーゼ。イタリア的、自由でしなやかなテクニックをお手本にしたい。
Nilufar Depot
http://www.nilufar.com
Nonostante Marras
http://www.nonostantemarras.it