Milano:ミラノ
2015-10-20
日伊をつなぐ食のマリアージュ

「食」をテーマにしたミラノEXPO開催もあとわずか。すっかりと食一色に染まったミラノは、さらに街の木々が彩り始め、例年に増して「食の秋」を強く感じさせます。EXPO会場に加え、市内各地で繰り広げられてきた日本各地の食を紹介するイベント。寿司や天ぷらだけではない豊かな日本食文化の、正しい形でのイタリア流布を強く願った現地在住の日本人は私だけではなかったはず。そんな中、麗しい秋の訪れと共に開催となった山形県・鶴岡市のイベントがとても印象的でした。

というのも、鶴岡市は、日本で初めてユネスコ食文化創造都市に認定された街。イタリアのスローフードの精神に似た土地に、個人的に興味があったのです。その鶴岡の伝統的な食と精神文化をイタリアで発信する、というではありませんか。市内で行われたイベントでは、上質で素晴らしい日伊の食材のマッチング、クロスカルチャーへの着目が好評でした。

舞台となったのは、ミラノのランドマークの1つ、スカラ座のお隣「トラサルディ・アッラ・スカラ」。100年以上の歴史を抱えた王室御用達の高級手袋メーカーだった伊メゾン「トラサルディ」が抱えるミシュラン2つ星レストランです。伝統を現代的に翻訳するブランドコンセプトが、今回のイベントにマッチしたようです。

ここで「トラサルディ」のロベルト・コンティ シェフと鶴岡市のイタリアレストラン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行オーナーシェフ、そして、出羽三山神社斎館の伊藤新吉料理長という3名が、鶴岡名産の食材と地酒をもって腕を揮い、日伊の食材と技術、文化と感性が1つになる瞬間をもたらしたのです。

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由緒ただしいスカラ座広場の光景をガラス越しに、会場では出羽三山の山伏たちと巫女たちの姿が新鮮に浮かび上がります。

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響宴の幕を開けたのは、前菜として供された藤新吉料理長による精進料理。創作なしの本物は、モダンな白磁器のプレート上でその印象を異に美しさを一層際立たせます。つい数年前だったら、食において「超」コンサバなイタリア人にはかなり難しい一皿。しかし、健康食に沸く昨今のヨーロッパで、1400年以上の歴史を持つ元祖ベジタリアンは、記者たちの注目の的に。最先端の美ビーガン料理と映ったに違いありません。

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さらに、ともに供されたワイングラスに注がれたキリリと冷えた地酒、大吟醸「出羽ノ雪」のコクとふくらみのある美味しさが、コンティシェフによる次なる伊の前菜「帆立のソテー、クリームと甘草ソース添え」をまろやかな美味しさで繋ぐのです。精進料理と日本酒と伊創作料理のマッチングに、日本人の私でも新鮮な驚きを覚えるスタート。

その後、引き続くは、コンティ氏と奥田氏によるファースト、メイン料理の競宴です。奥田氏による、庄内の日本米と鶴岡名産の「だだちゃ豆」を用いたリゾットや、スモークサーモンのメイン。そして、コンティ氏によるモッツァレッラソースとマグロを添えたニョッキや、牛フィレステーキのアーティチョークのバーニャカウダが添え。それら魚と肉の両者を鶴岡の地酒が抜群の相性で繋ぎます。

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最後にコンティ氏が「だだちゃ豆」に挑戦したティラミスには、江戸時代の製法をそのまま用いた地酒「十水」のふくよかで芳醇な味わいがお供。イタリア人記者たちをハっと驚かせました。

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精進料理が抱える不動の魅力、コンティ氏の食材の繊細なコンビネーションの巧、奥田シェフの究極なまで食材の持ち味を追求したシンプリシティ。3者による食卓は、異文化の距離を縮め、新発見に目覚めさせる刺激的なものに。

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ふたつの食文化の美味しさを繋いだ日本酒の懐の深さと奥行きも含め、日本食のイタリアでの可能性はここに来て確実に向上していることを感じさせます。これからのグローバルな開花を願って止みません。

Photos by Flavio Gallozzi