ミラノから国境を越えスイス、そしてドイツへ……。ミラノに住んでいて嬉しいのは、イタリア各地へはもちろん、ヨーロッパ各都市へのアクセスに最適な街であるところ。ダイレクトフライトもありますが近隣スイスやドイツ、フランスへラクラクと導いてくれる列車の旅もなかなかで、ヨーロッパ中のコンフェレンスやオープニングへボーダレスに参加したり、様々な人種とのダイアログを楽しむことができる環境を、結構気にいっています。
そして今回、スイス国境付近のドイツ領、ヴァイル・アム・ラインにある「ヴィトラ・キャンパス」へ出かけてきました。世界最大の家具ブランド、ヴィトラ社が抱える膨大なデザインコレクションを収容する新ミュージアム施設「ショウデポVitra Schaudepot」が、その敷地内に誕生したからです。
ヴィトラ社は、自社工場、オフィス、ショールームや美術館などを包括した敷地一体を「キャンパス」と命名。一家具ブランドの域を越え、文化、芸術、教育機関を目指す、強い独自のアイデンティティを感じさせます。
広大な田園風景の中に佇む「ヴィトラ・キャンパス」は、デザインの美しさはもちろん、その背景にある文化やストーリーがヴィヴィッドに浮かび上がる壮大な環境を抱えています。
敷地には、フランク・ゲーリーによるミュージアム施設を始め、アルヴァロ・シーザによる工場、故ザハ・ハディドによるコンフェレンス施設や安藤忠雄によるセミナーハウスなど、世界中の巨匠建築家たちの作品が点在。モダンデザインや近代建築のファンはもちろん、美しい景観とクリエイティブな環境は、一般やファミリーにも魅力的な場所であるに違いありません。
そして今回オープンした「ショウデポ」。そのスケールの大きさといったら!これまで常設展示できなかったという、創設者で現CEOのロルフ・フェルバウム氏が若き頃から集めた7000点以上の名作家具、膨大な照明の数々、多岐にわたるデザインアーカイブが結集しています。デザインの国イタリアにでさえ、これほどの規模のアーカイブも環境をも持つ施設は存在しません。一緒にいたイタリア人のジャーナリストたちといったら、「ロフル氏の蒐集癖は、病気としか思えない!」と、口々にジェラシーたっぷりの称賛の言葉を!
メイン会場には、1800 年から現在までの厳選された 400 点 の名作が常設展示。オーディオガイドの丁寧な説明に加え、スマートフォンには各展示家具の歴史的背景や詳細がリンク。しかし、それだけでは終わりません。倉庫に眠る膨大なコレクションが、ガラス越しに覗けるようデザインされた地下では、もっと見たい!という興奮が止まりません。
さらに、その一角には、チャールズ・レイ・イームズがヴィトラ敷地内に抱えていたオフィスが当時のままの状態で再現されています。まさにヴィトラのヘリテージを目の当たりにすることのできる新ミュージアムなのです。
またバーゼル拠点の建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロンが手がけた「ショウデポ」の建築自体も見ものです。ミニマルなデザインですが、実はハンマーで手割りしたレンガが壁を構成するプリミティブタッチが印象的。そんな部分にも、ヴィトラのスマートでいてアートクラフト的なデザインの魅力を感じさせられます。
最後に駆け足で回ったショールーム施設「ヴィトラ・ハウス」で目を引いたインスタレーションがありました。「不思議の国のアリス」をテーマにしたローズ色の世界。緑の田園風景を背景に、まるで本当にうさぎを追いかけてやってきてしまったかのような感覚に・・・
ミラノにやってきたら、アリスのように好奇心をもってボーダレスに近隣のヨーロッパの都市へも足を伸ばしてみて下さい。ますます面白くなったヴィトラ・キャンバスは一押しです!
●Vitra Schaudepot /Vitra Campus
Charles-Eames-Str. 2 D-79576 Weil am Rhein 10:00~18:00
https://www.vitra.com/en-it/campus