毎年10月下旬から11月初めにかけては、インテリア界が一年で最も盛り上がる時期。関連メーカーやショップが新商品をお披露目したり、各種クリエイターとコラボレーションして企画展を行ったりするデザインイベントが都内で多数開催されます。
「7 COOL ARCHITECTS」プロジェクトの展示会場風景。Photo by Yosuke Owashi
上の写真は今年注目を集めた展示の一つ。名作椅子「セブンチェア」はご存じの方も多いと思いますが、どこか様子が違いますね。セブンチェアはデンマークのフリッツ・ハンセンという家具メーカーと、同じくデンマークの建築家でありデザイナーだったアルネ・ヤコブセンとの協働により、1955年に生まれました。つまり今年は発売60周年。それを記念して同社は「7 COOL ARCHITECTS」というプロジェクトを発足させ、世界を舞台に活躍する7つの設計事務所に、この椅子を再解釈した特別なデザインを依頼。世界に一つだけのアートピースとして、ヨーロッパの各都市に続き東京でも発表したのが本展です。
脚を取り去ってシェル(座面と背)だけにしたものや、シェルの材料や脚の形状を変えたもの、2脚組み合わせたものなど、原形を変えてはならないという条件のもと、7組の建築家はそれぞれに、この椅子に新しい価値を与えようとしています。それが写真からも伝わってきませんか? そう、デザインする人、つくり手の思いや考えが家具の中で一番よく表れるのが椅子なんです。
左上はスノヘッタ、右上は日本から唯一参加の五十嵐淳建築設計で、廃材を再利用してシェルを成型。左下はネリ&フー、右下はザハ・ハディド。他にカルロス・オット建築設計事務所&カルロス・ポンセ・デ・レオン、ジャン・ヌーヴェル、ビャルケ・インゲルス グループ(BIG)が参加。これらのセブンチェアは東京での展示後、アジアでの巡回展を行い、チャリティーオークションに出品される予定。Photo by Yosuke Owashi ●セブンチェアについての詳細はhttp://www.fritzhansen.com/jp
次に、この秋から国内で新しく発売になった椅子も、いくつかご紹介しましょう。
イギリス・アーコール社の「FLOWチェア」は、ロンドンを拠点とする日本人デザイナーの安積朋子さんがデザイン。同社が得意とする伝統的な曲げ木の技術(蒸気で木を曲げる)を活かしつつ、現代の住まいに合うデザイン性と、スタッキング(積み重ね)できる機能性を兼ね備えた1脚で、背から肘、脚まで一体の曲げ木のラインが美しく、優しさを感じさせます。
アーコール社は100年近い歴史を有する老舗の家具メーカーで、ファッションデザイナーのマーガレット・ハウエルさんがその椅子を再評価したことにより、近年、世界中で人気が高まっています。日本では横浜の家具メーカーのダニエルが輸入販売しています。http://www.ercol-japan.com/
旭川の家具メーカーのカンディハウスがデザイナーの深澤直人さんとつくり上げた「KAMUY(カムイ)」は、「椅子らしい椅子」を目指したそうで、シンプルな造形美と優れた木工技術の融合が光ります。旭川は日本を代表する木工家具の産地で、同社は旭川だけでなく国内全体の家具づくりを牽引する、リーダー的な存在。一方、深澤さんは多くのブランドや企業でデザインやコンサルティングを手がける、日本を代表するデザイナーです。
「KAMUY」コレクションはダイニングチェアの他、ダイニングテーブルやリビングチェアも揃う。ダイニングチェアは肘なしもあり、木部はウォルナット、北海道産ナラのナチュラル、北海道産ナラのブラックの3種から、座面も木座、布張り、革張りから選択可能。http://www.condehouse.co.jp/
続いてご紹介する「SCOUT」は、「KARIMOKU NEW STANDARD」というブランドに新しく加わった椅子。カリモク家具と、ドイツ出身のデザイナーのクリスチャン・ハースさんがコラボレーションしたもので、背のカーブが快適な座り心地を実現しています。モスグリーンは椅子のカラーバリエーションには珍しく、部屋のアクセントになりそう。
デザインイベント期間中の展示会場風景。同シリーズのテーブルもある。Photo by Takumi Ota
カリモク家具は木製家具メーカーとして70年以上の歴史があり、同ブランドでは国内の広葉樹(カエデ、クリ、ナラなど)の活用に力を入れている。クリスチャン・ハースさんはクリストフルやローゼンタール、ビレロイ&ボッホといったメーカーとの協働経験があるデザイナー。http://www.karimoku-newstandard.jp/
椅子は塗装色や張り地などの仕様によって雰囲気が一変します。下の写真のように、同じデザインの椅子で、仕様を1脚ずつ変えるのもコーディネートの一つの手です。この椅子はマルニ木工の「HIROSHIMAアームチェア」の座面に、アメリカ・ポートランドのファブリックメーカー・ペンドルトンの生地を張ったスペシャルモデル。日米のクラフトマンシップが交わり、普遍性の中に新たな魅力を宿しています。
インテリアスタイリストの作原文子さんの提案で、深澤直人さんデザインの「HIROSHIMAアームチェア」の座面にペンドルトンの生地を張ったこのスペシャルモデルが生まれた。全14種類、限定100脚。Photo by Norio Kidera, styling by Fumiko Sakuhara ●12/12〜20に代官山で開催される作原さんのインスタレーション展「mountain morning “WHITE”」での販売の他、サテライト会場としてマルニ東京でも販売される(12/11〜23)。http://www.mountainmorning.jp/
仕様だけでなくデザインの全く異なる椅子を、ダイニングテーブルに1脚ずつ合わせているインテリア写真を雑誌で目にすることも最近は珍しくなくなりました。そういうカフェもよく見かけます。やや上級コーディネートにはなりますが、案ずるより産むが易し。世の中には素敵な椅子がたくさんあります。すでに必要な数をお持ちでも、気に入った椅子を見つけたら手に入れては? 座り心地の好みも人によって違いますから、家族がそれぞれ「マイ・チェア」を選ぶことは理にかなっているとも言えます。なにより、気に入った椅子は長く愛用できるはず。ぜひ、あなたの1脚を見つけてみてください。