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2016-03-08
昨日より気分のいい空間 by 長井美暁
#08 機能的で愛らしい家具が伝えるDIYの楽しさと可能性

今回は「石巻工房」の家具をご紹介します。「世界初のDIYメーカー」を標榜する同社の家具は、2×4(ツーバイフォー)などの規格サイズのレッドシダー材を使い、簡単な加工と平易な技術でつくられています。DIYと言っても、購入者が自分の手で組み立てる必要はありませんので、ご安心を。

1.ISHINOMAKI STOOLISHINOMAKI STOOL D=芦沢啓治 石巻の仮設住宅のために考案され、後に商品化。2015年にイギリス・ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館の収蔵品に選ばれました。焼き印の場所はリクエスト可能です。

同社の製品は全部で約50アイテムあります。その一部をまずご覧に入れましょう。

2++左上/AA STOOL D=トラフ建築設計事務所 右上/CARRY STOOL D=安積朋子
左下/MA series D=トマス・アロンソ 右下/SS-SHELF D=トラフ建築設計事務所 Photos by Fuminari Yoshitsugu(4点とも)
3.TORORI4.MIYAGI CLOTHES HANGER
左/TORORI D=MUTE Photo by Fuminari Yoshitsugu 右/MIYAGI CLOTHES HANGER  D=マイケル・マリオット この製品は宮城県栗駒山のスギ材を使っていて、組立式です。

シンプルながら独創性があり、機能的。そして、どこか愛らしい。他ではちょっと見ない家具や小物ばかりです。デザインはすべて、国内外で活躍する建築家やデザイナーが手がけています。「スモール・アウトドア」というコンセプトのもとでデザインされていますが、屋内でも使用可能です。

石巻工房は2011年の東日本大震災をきっかけに生まれました。宮城県石巻市が震災で甚大な被害を受けたことは皆さんご存知の通りです。

現在、同社の共同代表を務める建築家の芦沢啓治さんは東京を拠点としていますが、震災の1年ほど前に石巻で設計の仕事をした縁がありました。震災後、芦沢さんが現地を訪れて目にしたのは、瓦礫やヘドロの撤収が進む一方で、建物の補修や復旧が後回しにされている状況。そんななかで、ある飲食店の店主との出会いが芦沢さんの頭にアイデアの種を植え付けます。その店主は自ら店を修復し、早期に営業を再開していました。

職人が来るのを待つのではなく、可能な範囲で自分の家や店を自分の手で直す。店主の姿にDIYの原点と可能性を見いだした芦沢さんは、石巻の人々が「自分たちのまちを自分たちの手でつくり直す」ことができるように、「地域のものづくりの場」を設けることを思い立ちました。そして、知り合いのデザイナーなどに協力を求め、工具や材料も集めて、2011年6月に開設したのが石巻工房です。

5.factory現在の石巻工房の様子。つくり手は計5名。工房長で共同代表の千葉隆博さんは鮨職人でしたが、店が被災。もともとDIYが趣味で、ワークショップに参加したことを機に工房メンバーに。

工房から生まれた家具の第1号は「ISHINOMAKI BENCH」。石巻工業高校の生徒たちとのワークショップで製作した、市民のためのベンチです。芦沢さんは石巻工房に地元の若者を巻き込みたいと考え、同校に建築科があることを知り、夏祭りの野外映画上映会で使うベンチを一緒につくろう、と呼びかけました。高校生たちは工具の扱いに不慣れのため、このベンチはそんな彼らでもつくれるように構造やデザインが考えられています。

6.ISHINOMAKI BENCHISHINOMAKI BENCH D=芦沢啓治 ベンチは上映会の客席として使われた後、市内のいろいろな場所に置かれ、市民に愛用されています。

その後、近隣の仮設住宅に暮らす人たちとも、このベンチをつくるワークショップを開催。それを機に、仮設住宅での生活に必要な家具をつくろうという話が展開し、住人へのヒアリングをもとに「ISHINOMAKI STOOL」や「ENDAI」を考案。住人を交え、製作のワークショップも行いました。ワークショップ中は電動ドライバーの使い方を小学生に教えたこともあったそうです。

7.ENDAIENDAI D=藤森泰司 石巻の仮設住宅で、掃出し窓の外に置くために考案された縁台のようなベンチ。背もたれの付いたタイプもあります。

石巻工房の家具は「簡単な加工と平易な技術」でつくられていると冒頭に記しましたが、理由はこのように、地域の人々がDIYできることを前提に家具をつくり始めたからでした。レッドシダー材を使うのも、耐久性と強度があり、かつ、加工しやすい材料が求められた被災地の実情からです。

まもなく震災から5年。この間に石巻工房の役割も広がりました。まちづくりを持続的に担うために、また、地域の雇用を維持するために、製品ラインナップを増やし、それらを全国にネット販売しています。ただし、DIY精神は今も変わらず。既成概念にとらわれないユニークな製品を生み出す原動力となっています。

8 のコピーKOBO ST-DESK D=芦沢啓治 今年の新作、スチール脚とリノリウム天板のデスク。

石巻工房の家具は無垢材を使っていて頑丈なのに、軽くて持ち運びやすいのが長所です。無塗装なのでメンテナンスも簡単。汚れや傷は表面を削れば元に戻ります。好きな色に自分でペイントしてもいいですね。シンプルなつくりだから、付けたり足したりしてカスタマイズもできそうです。

こんなふうにイメージが膨らむのは、同社の家具がいずれもアイデアに富み、そのアイデアを暮らしの中で一緒に楽しめる雰囲気があるからでしょう。誰もが持つDIY精神が刺激されると言いましょうか。「工作の授業や夏休みの宿題などで、何かをつくったことが皆さんありますよね。石巻工房の家具はその延長にあって、自分でもつくれそうだけど、よくできているね、と思ってもらえるところを狙っています」と芦沢さん。

この家具や小物があることで、インテリアはもとより生活そのものが楽しくなる。石巻工房のウェブサイトで、ほかの製品もぜひチェックしてみてください。東京には実物を見られるショールームもあります。

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ショールームは昨年6月、東京都文京区小石川の古い印刷工房をリノベーションしてオープン。1階は家具の展示と工房スペース。2階は暮らしのシーンごとに石巻工房の家具が使われている様子を見られます。見学は予約制。Photo by Takumi Ota

●石巻工房
http://ishinomaki-lab.org