難民やテロ問題の渦中にあるイタリアではありますが、東日本大震災が5周年を迎えた去る３月11日、震災に関わる多くの記事や番組が報道されました。イタリア人たちと共に、改めてこの惨事の大きさに心を揺さぶられました。
ミラノを拠点にするNPO協会『Orto dei Sogni』（オルト·ディ·ソーニ＝夢を育む小さな畑）もまた、追悼イベントとして、映画『小さき声のカノン』（鎌中ひとみ監督）の上映会をミラノとヴェネチアにて開催しました。私が日伊の仲間と共に運営しているこの協会は、震災を機にミラノにて発足。放射能線量が特に高い被災地に留まる子供たちを、毎年イタリアに１ヶ月間招く転地保養サマーステイを運営しています。
この映画は、福島とチェルノブイリという国境を超え、放射能から子供たちを守ろうとする母たちの姿を描いたドキュメンタリー。シンプルかつ明快に掲示される被災地の現状と、逆境と葛藤の中に生きる母たちの姿を目にした満席の会場は、「知っているつもりで、知らなかったことの多さに驚かされた」という声に溢れました。国籍や文化は違っても、誰もが同じ時代に生きる人として、子供たちの未来、繰り返してはいけない経験を振り返えることができる作品でした。
ところで、このオルト・デイ・ソーニ（以下オルト）をぜひ紹介させて下さい。震災当時、私たちミラノに住まう日本人たちは、やるせない思いと多くのイタリア人たちからの「日本のために何かしたいが、どうすればいいか」「寄付をしたいが、きちんと現地に届くのか不安」という声のシャワーの中におりました。イタリア人たちの慈愛に、「その真心を無駄にすることなく現地に直に届けたい」「その支援の行く先、結果が目に見えて分かるようにしたい」と、協会設立に至ったのでした。
そして「イタリアが被災地のためにできること」を信条に選んだ支援活動が、被災地の子供たちのイタリアでの１ヶ月間転地保養サマーステイだったのです。小規模ですが、支援金集めから参加者の募集・選抜、ステイ運営、ステイ後も継続する参加者とのふれあい、支援者への継続的な報告活動に至るまで、丁寧に行えるテーラーメイドな活動を続けてきました。そんなサマーステイも今夏で５年目。招待した子供たちは総勢74名となります。
オルトのサマーステイは、手つかずの大自然が残るサルデーニャ島でのシンプル＆ワイルドライフ。「自然との共生」「心身を育む食」「異文化に触れ視野を広げる」という３つの軸をベースにしたアクティビティから成り立ちます。このステイが５年間継続できたのも、日伊のご支援者の日本を思う気持ちがあってのこと。そして、86年発生のチェルノブイリ事故を身近に経験し、当時から被災地の子どもたちを保養に受け入れ続けてきたイタリア人の多大なる経験と理解、協力がなければ不可能でした。さらに、イタリア人のおおからかさと豊かな個性が、子供たちの心をも元気にしてくれていると実感しています。
ホームステイではなく集団ステイの形式をとっているのは、必要以上な不安を取り除き、子供たちのデトックス力と免疫力を高めるため。そして、自立と協力の大切さを体感してもらうためです。そして、日伊スタッフとの共同生活の中で、地元の子供たちとの交流を重視したアクティビティを行っています。
食事は「畑から食卓まで」をキーに、畑仕事や手作り料理への参加、地産地消はもちろんみんなで食卓を囲む楽しさも大切にしています。
そしてそんなステイにおいて、大自然に寄り添い、素朴でホスピタリティ心の高いサルデーニャ島は、このステイにもってこいの地。
最初は不安そうにしていた真っ白い顔のチビッ子たちも真っ黒に日焼けをし、各々にイタリア人たちとの交流手段を見つけ、日々を自分らしく楽しむように。そして決まって別れの日には涙の大合唱。帰国後は誰もが決まって「大きくなったらオルトのスタッフになりたい。今度は自分が困っている人たちを助けたい」というような手紙を送ってきます。子供が持つ柔軟性とエネルギー、そして可能性の大きさには目を見張るばかり。
昨年、ハッとさせられた参加者のお母さんからの手紙がありました。「保養に行きたいという息子を最後まで反対していました。しかし、逞しくなって帰ってきた息子との再会に、自分たち親も成長したと感じました。震災後、いつどこで子供と引き裂かれてしまうかという不安が常にあり、子供を手放せずにいたのです。この保養によって、私たちも未来へ一歩踏み出すことができました」（簡略）。
イタリアと日本の優しい繋がりに成長する子供、そして私たち大人たち。「被災地の人々の未来は、私たちの未来」は、オルト・デイ・ソーニのスローガンです。どうぞ応援下さいませ！
●Orto dei Sogni
– Children’s education for Nature, Food and Global Growth —
http://www.ortodeisogni.org
●『小さき声のカノン』
監督: 鎌仲ひとみ、プロデューサー: 小泉修吉、製作/配給: ぶんぶんフィルムズ
http://kamanaka.com/canon/
