Brighton:ブライトン
2016-04-15
ドーセットへの旅、ジュラシックコーストで化石発掘

3月末から4月のはじめにかけて、ヨーロッパ諸国の多くではイースター休暇にあたります。この時期、ちょうど春休みにあたる日本から遊びに来た恐竜好きの甥っ子をつれて、ドーセットに行ってみることにしました。

ドーセットの海岸は化石が発掘されることで有名で、ユネスコ自然遺産にも指定されています。とくにチャーマス海岸は化石ハントの中心地。切り立った断崖の土がしばしば海に崩れ落ち、土中にあった化石が新たに浜に打ち寄せられてきます。

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かなり観光化されていて、浜辺に建つヘリテージコースト・センターでは、地層のなりたちや、よく見られる化石の説明を見てばっちり予習できます。みやげもの店ではここで採れた化石を売っているので、万が一、自分で見つけられなかった場合も手ブラで帰る心配はありません。

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そういうわけで、チャーマス海岸での標準装備は水着やビーチボールではなく、ゴーグルと金づち。海を見る人など誰もいません。崖によじ登るか、足元を見ながら歩くか。崖を見上げると、黒い土に、より新しい赤土が乗ってくっきりと層をなしているのがわかります。これぞザ・地層。たしかジュラ紀とか白亜紀とか習ったっけ?……もはや化石並みに遠くなった、理科の授業の記憶がフラッシュバック。黒くてボロボロと軟らかいのがジュラ紀の地層です。

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そして驚くことに、同行の何人かがつぎつぎと化石を発見! ひとつは海藻のようなもの。まぎれもなく、事前にヘリテージコースト・センターで見たものと同じ。それから直径3センチほどのアンモナイトらしき灰色の丸い石。爪の先ほどの赤茶色のアンモナイトの一部も。そして何かわからないけど断面になった化石らしきもの、などなど。

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とくに、ひとり黙々とひたすら石を割っていた甥っ子は発見も多かったもよう。化石掘りに満足したかどうかたずねると、「石を割るための『たがね』があればよかった」とのこと。本気の化石掘りに行く予定の方は、ぜひ覚えておいてください。ちなみに、金づちも普通のものでは壊れる可能性があり、現地では特別に強化されたジオグラフィカル・ハンマーなるものが推奨されていました。石の破片が飛び散る危険があるので、ゴーグルも忘れずに。

ここでは約200年前からすでに化石掘りが盛んでした。なかでもチャーマス海岸の近くに住んでいた女性、メアリ・アニングは、最初期の化石ハンターとして有名。11歳のときにはじめてイクチオサウルス(サメとクジラとワニが合体したような、水棲の恐竜)の化石を発見して以降、化石掘りを生涯続け、数々の発見をした人です。ロンドンの自然史博物館には彼女が発見したイクチオサウルスやプレシオサウルスの巨大な化石のそばに、彼女の肖像画の写真が展示され、その功績に敬意をはらわれているほど。ボンネットを頭にかぶって金づちと籠(中身はサンドイッチじゃありません)を手にしたその姿は、なんだかシュールレアル。

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話は逸れますが、最近たまたま読んだ本、フランシス・ハーディング著の『The Lie Tree』(嘘の樹)を思い出しました。19世紀後半のイギリスを舞台にしたヤングアダルト向けの歴史ミステリー・ファンタジー小説。化石の発掘現場が登場し、主人公の少女が海岸で化石探しをする記述もあります。当時の人は、化石によって明らかになった恐竜など古生物の存在(そして進化論の考え方)が、聖書の記述と矛盾するのでひじょうに悩んだわけです。そうした宗教と科学の相克や、高い科学的知識を持ちながら社会的には認められなかった19世紀の女性のあり方が、この小説の大きなテーマになっています。知的にスリリングで大人が読んでも十分におもしろく、イギリスの有名な文学賞のひとつ、コスタ文学賞(2015年)の最優秀賞を受賞したほど。

化石に関して誰よりも博識だったにもかかわらず、労働者階級の出身で女性だったために、生前はその功績を認められなかったメアリ・アニング。この小説のテーマとおのずと重なります。自然史博物館の肖像画写真は、ある意味で罪滅ぼしなのかもしれません。