Brighton:ブライトン
2015-11-13
コーンウォールでクリームティー

イギリスの学校では学期の半分が過ぎるとハーフ・タームと呼ばれる1週間のお休みがあります。9月に始まった学期のハーフ・タームを迎えた10月末、夏休みに行けなかったコーンウォールの親戚宅に遊びにいきました。英国南西部のコーンウォールは暖かく気候が穏やかなところで、特に夏は遠方からの海水浴客で賑わう人気の観光地です。これを裏返していうと、南西部まで行かないと泳げるほど暖かいビーチがほとんどない(夏でさえ)のが現実でもあります。

しかし、コーンウォールは遠い。ブライトンから電車を乗り継いで4時間強(ロンドンからでも同じくらい)。こんなに小さな島国なのに、とくに南西部へは、鉄道の効率がおそろしく悪いためか、心理的にとても遠く感じます。とはいえ、デヴォンの海岸線に出てからは、その名も「コーンウォール・リヴィエラ特急」というだけあって、車窓からの景色は海一色に。私たちはルー(Looe)というかわいい名前の小さな町に向かいます。古くからの漁村で、今でもここで水揚げされる魚の多くは、ロンドンほかイギリス各地の高級レストランやショップに直送され、地元で小売りされる分は少ないとか。

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海に向かって急斜面が迫り、家々はそこにアクロバティックにへばりついています。親戚宅もこの崖のてっぺんにあって、町へのアクセスは長い坂をえっちらおっちら上り下りしなくてはなりません。しかし、家からの眺望はすばらしくて、半島状に海に突き出たルーの起伏に富んだ地形が一望のもとに。山から下った川が小さな入り江に注ぎ込み、その川に架かった橋を人が往来していたり、子どもが蟹を釣っていたり。漁船や客船には黒字に白十字のコーンウォールの旗。典型的な南西部の漁村の光景に心がなごみます。家々の屋根や石垣には、この地方特産のスレート(石板)が多く使われていて、これが独特な景観をつくっています。

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幸い天気に恵まれて、山歩き、磯遊びと、ルーだけでもやることがてんこ盛り。磯遊びでは子どもを置き去りに大人4人で夢中になって海の生き物を探しましたが、老眼のせいか、蟹1匹とヤドカリ2匹という情けない結果に終わりました。

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さらには1時間ほどクルマで西に向かい、コーンウォールの先端部にほど近いセント・アイヴズまで足を伸ばしました。ここは真っ白な砂浜が延々と続くビーチが有名で、画家や作家が多く居住したアーティスト・コロニーとしても知られるところ。今もクラフトやアートのギャラリーが多いうえ、テイト美術館の分館やバーバラ・ヘップワース美術館など本格的なミュージアムもあって、散策も楽しい町です。

私の個人的お目当てはバーナード・リーチ工房。リーチは日本の民藝運動の人びと、とりわけ濱田庄司と交流が深かったことで知られる陶芸家で、濱田もセント・アイヴズに滞在し、登り窯を制作しました。リーチ工房では折しも、濱田に関する展示がおこなわれていました。リーチと濱田は「スリップウェア」と呼ばれるヨーロッパの古陶器に興味をもち、当時忘れられていたその技法を探りだし、再現したことが知られています。

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展示を見ていると、濱田の日記を引用したこんな記述が。濱田はある日、クリームティーをごちそうになります。そこでイギリス人がスコーンにバターとクロテッドクリーム(南西部発祥の脂肪分の高いクリーム)とジャムをこれでもかと重ねて塗るのを見て、ハッとします----「スリップ(化粧泥)+釉薬+別の色のスリップとを重ね塗りしてみてはどうか?」。これをヒントに、濱田とリーチは競うように古いスリップウェアを再現したというのです。まるでリンゴの木から万有引力を発見したニュートンとか、大リーグボールを編み出した時の星飛雄馬みたい。じつは工房のギャラリーで現代のスリップウェア作品を買うのが私の真の目的だったのですが、残念ながら手頃なものがなかったので、代わりに渋い緑が気に入ったボウルを購入。

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クリームとバターの重ね塗りはくどすぎるかもと思いつつ、ルーに戻るとさっそくクリームティーの時間。クロテッドクリームにはうるさい人がいて、コーンウォール産でなきゃダメだとか、隣のデヴォン産が良いとか。私は地元出身の親戚たちの手前、コーンウォール産のものだけをクロテッドクリームと呼ばねばならない立場です。

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小さな町ながらカフェやスウィーツの店が充実しているのもルーでの楽しみのひとつ。とはいえ近年は観光客向けの店が急増しているので質にはバラつきがあるらしく、「クリームティーなら絶対にあの店がオススメ」のアドバイスに従って、コレという店に足を運びます。ほかにもクロテッドクリームでつくったアイスクリームをはじめ、メレンゲ+クロテッドクリーム+いちご、クランブル+クロテッドクリームなどを連日食べ続け、体内の脂肪分を格段に高めて帰ってきました。

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