Berlin:ベルリン
2015-10-22
旧東ドイツの友人を訪ねて

10月3日は東西ドイツ統一25周年。秋晴れのその日、夏にファッション撮影のモデルをお願いして知り合ったビデオ・アーティストカップルのユタとインゴを旧東ドイツ、ブランデンブルク州ブッフホルツに訪ねた。

70年代前半のユタはこの村の農家に生まれた。12歳の時に、壁が出来る前に家族で自由を求めて、先にお姉さん、それからユタというふうに、もちろん地元の人には内緒で、西ベルリンに逃げたのだ。89年に壁が崩壊すると、ブッフホルツの親戚は亡くなっていて、大きな家畜のための建物などがユタのものになった。社会主義時代はなにも手入れがされていなくて、ひどい状態だったが、建物を改築して今はアーティストのための家になっている。

11923年のブッフホルツ、ユタの家族Gottwald家の農舎

2人は近くのもう少し小さな(といってもかなり広いし、お庭もある)農家と馬屋を買った。教会の反対側で墓地にはユタの家族が眠っている。インゴは大工仕事が得意でここ20年でひどい状態だったこの家を見事に改装した。彼女たちがこの村に移ってきてから、知り合いのアーティストもベルリンからブッフホルツに移ってきて、今ではちょっとしたアーティスト村になっているそうだ。

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彼らはベルリンにもフラットを持っているが、インゴの方はほぼ1週間、ここで生活している。ユタは人に会ったり、映画やギャラリーに行くなど都会の生活も好きなので半分半分くらい。2人はとても仲がいいけれど、独立していて素敵な関係だ。

インゴが大工仕事、料理などをする反面、ユタは街のフリーマーケットやガラクタ屋でシルバーのカトラリーや食器、素敵な家具を見つけてくる。とにかくセンスが良い。「別に揃っていなくても、素材が良ければ気にしないの」とユタ。インゴは磁器の金つぎや銀つぎもやっていて、とにかくクリエイティブな2人だ。

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おじゃまするのでおにぎりや唐揚げなどを持って行った。インゴがローストビーフとパプリカのグリルを用意していてくれていた。本当にお料理上手。ドイツ統一記念日に乾杯!

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2人はワイン好きで、セラーにはワインがいっぱい眠っているそうだ。仕事の関係などもあり、イタリアやエジプトなどいろいろな国に行っているから食にも詳しい。日本食をブッフホルツで食べるのは初めてらしく、喜んでいただいて、持って行ったかいがあった。食事をしながら、2人は自分たちに起こった話をたくさんしてくれた。

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インゴは戦争が終わった時はチェコにいて、家族で急いで南ドイツに戻り、何もない状態からスタートしたという。彼が何でも出来るのも、小さい時から自分で物を作ることは当たり前で育ったからだという。10月3日には毎年ここでお祝いするのかと聞くと、ユタがシリアスな顔になった。「特にしないわ。私たちはこうして幸運を得たけれど、同じ年くらいの人たちの中には統一で仕事を失ったり、家族の関係が悪くなったりした人もいっぱいいるの。だから、単純には喜べない。でも、分断されていた1つの国が1つに戻ったことは祝う価値があるかもしれないわね」

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25年前はわりと最近のことで、2人の長い人生を考えるとドイツの激動の歴史が重なって、帰路の電車の中で、色々なことを再びしみじみと考えさせられた。

10月7日にはアンゲラ・メルケルがシリアなどからの難民を全面的に受け入れると夜のテレビ番組で公言した。統一以来、また歴史の一幕が開いたと感じる今年。新しい試練がドイツに巡ってきたが、この国はその波も乗り越えていくような予感がする。