5月に入ってようやく春めいて、気温20度を越える日もあったブライトン。去年は6月後半まで冬物を着ていたことを思うと、感慨無量の今日この頃です。日本のゴールデンウィーク中のある一日、家の近くの公園で、公立学校での新しいSATsテストに反対する集会があったので、見物がてら参加してきました。
イングランドの学校では、公立小学校の2年生(6~7歳)と6年生(10~11歳)が、5月にSATsと呼ばれる全国レベルの学力テストを受けます。政府はこれにテコ入れして、今年から評価方法を厳しくしました。従来は、成績を何段階かのレベルで示したのが、今年からは「○点です」とスコアをそのままわたす方式に。成績が全国平均より低いと、先生から指摘され、とくに6年生はテストの受け直しもあるとか。
当然ながら、ちまたの評判はイマイチ。とくに2年生は年齢が低いので、全国レベルの学力テストじたいが早すぎると、反対の親ごさんも多いわけです。たしかに、日本でいえば小学校に入ったばかり。勉強が楽しくて、遊び感覚で学ぶ年齢の子どもに、「あなたの成績は全国平均より下…」とかいってもなあ。
そんなわけで、2年生の新SATsがおこなわれたこの日、公園に集まった保護者や子どもたちは約500人。「新SATs反対!」「子どもは子どもらしくさせて!」などなど、思い思いの横断幕を掲げて、お祭りさわぎの楽しい雰囲気でした。SATsをボイコットするために、子どもを学校に行かせずにここに連れてきているので、まさにストライキのようなもの。それだけに、言いたいことは山ほどあるようす。
「こんなに小さいうちからテスト漬けにして、よけいな精神的プレッシャーをかけるなんて、ふざけてる」「学校側はいい成績をとらせるために、工作とか、音楽とか、自由作文とか、テストに出ない創作系の時間を削っている」「テストの成績ばかりよくて、ロボットみたいな人間ばかり育てたいのか?」などなど、言うわ言うわ。
日本では、とくに子どもがからむと、学校への目立つ反対意見は言いにくいと思うので、子どもをストに動員してしまう行動主義は本当にいいなあと思います。オンラインでは5万名の反対署名を集めて、文部省に提出したとか。政府も政府で手際が悪く、2年生の試験問題が4月に文部省のウェブサイトに「あやまって」アップされてしまってつくり直し(苦笑)。さらには6年生の試験問題も、テスト前日に、作成した業者ピアソン社のサイトにアップされる始末(失笑)。
このSATsは、国語(英語)と算数と理科だけ。要するにペーパーテストにして数値化しやすい科目だけです。そもそもの発端はおそらく、OECDの国際学力比較(いわゆるPISA)なるものができて、教育レベルの比較ができるようになったこと。イギリスの15歳の成績が、他国と比べてあまりに低いことに政府(の誰か)が危機感を抱いたのでしょう。
PISAの評価対象も国語と算数と理科だけです。そして、成績上位の5位くらいまで、すべて中国・台湾、韓国、シンガポール、日本といった東アジアの国ばかり。これが何を意味するか、よくおわかりですね? 小さいころからテスト漬けにすれば、たしかに成績は上がるはず。国語も算数も理科も千本ノックみたいなもので、記憶の条件反射である程度は正解できるから(PISAがほんとうに15歳の学力を正当に評価できているのかという問題もまたあり)。
公園の集会には、ブライトン在住の著名イラストレーターで児童書作家のクリス・リデルも参加して、「テストに頼るのではなく、読書が与えてくれる楽しみを自分で知る子どもに育てよう」とアピール。親のおかげでテストを受けなくてすんだ(?)子どもたちは、珍しい好天気にも恵まれて、朝っぱらから公園で遊べたラッキーな一日になったのでした。