teatime
2016-08-01
心を癒すお茶の時間 by 岩咲ナオコ
#13 芳醇な香りの「東方美人」、夏におすすめです!

夏はどんなお茶がおすすめですか? そんな質問を受けることがよくあります。ほのかな香りで優しい味わいのある白茶や、爽快感のある緑茶、さまざまなお茶を水出しや冷茶にするのも夏ならではの楽しみ方ですね。

今回、夏のお茶としてご紹介したいお茶は、台湾の西北部で採られる台湾烏龍茶「東方美人」。オリエンタルビューティ(oriental beauty)とも言われ、その魅力的な名前からも女性にはとても人気の高いお茶です。

1.東方美人茶葉1

南国の太陽の恵みを受け、褐色・白・紅・緑・黄と豊かな色彩をもつ茶葉、紅茶のダージリンをおもわせるような美しい湯色に視覚的にも惹きこまれてしまいます。口にふくむと紅茶のような味わいに加え、ほんのりとした蜜のような香り、そしてマスカットのような味わいさえ感じられます。うっとりしてしまうような香りと味わい、そしてこの美しいネーミング。飲んでいるだけで貴婦人になったような気分にさせてくれるお茶なのです。

さて、一般的にお茶(特に烏龍茶)は、春や冬に摘まれるお茶が良い品質とされ、夏に摘まれるお茶は、上質なものが少ないと言われていますが、東方美人は夏限定(6月~8月)でつくられるお茶です。その理由は、夏がはじまる芒種(24節気のひとつ)の時期に発生するウンカとお茶の関係にあります。

ウンカとは、ミドリヒメヨコバイのことです。中国語では、小緑葉蝉と言いますが、緑色をした小指の爪の先ほどの小さい蝉に似ています。イネ科の植物にも飛来し、農業を営む人々には害虫として疎まれている虫です。

2.ウンカ

このウンカはお茶の樹も大好きで、季節になると茶畑にはウンカが飛来しはじめます。一般的には茶樹を守るために害虫駆除の必要があるのですが、東方美人の場合、蜜のような甘い香りに仕上げるには、ウンカの力を借りる必要があります。

ウンカが飛来し始めると、その害から身を守ろうとする茶樹は独特の香り(内分泌物=ファイトアレキシン)を発するようになります。この防衛本能として出される内分泌物が、製茶工程を経て発酵していく過程で、蜜のような芳醇な香りを形成していくのです。具体的なメカニズムはまだ解明されていないようですが、このウンカの影響がなければ、「東方美人」独特のマスカットや蜜のような香りのあるお茶が出来ないのです。まさに自然の生態系の力が最大限に活かされて生まれたお茶なのです。

3.茶摘み

さて、この「東方美人」という美しい名称の他にも、白毫烏龍茶、香檳烏龍茶、五色茶、椪風茶、膨風茶など、さまざまな異名を持っているのもこのお茶の特徴。名前の由来には、さまざまなエピソードが伝えられています。

例えばオリエンタルビューティは、その昔、台湾の烏龍茶が大々的にヨーロッパに輸出されていた時代に、時の大英帝国女王ヴィクトリアが、このお茶を飲み感動し「オリエンタルビューティー」と呼んだのがいわれだとか。

4.東方美人 温茶1

一方、「膨風茶」と親しまれている理由ですが、もともと「膨風」とは「ほら吹き」という意味。ウンカが大量発生し、売りものにならなかった夏茶を機転をきかせて製茶したら高値で売れた。けれども誰にも信じてもらえず、挙句の果てには「ほら吹き=膨風」呼ばわりされてしまった、という話から、この名が付いたとか。

さまざまなエピソードが飛び交うほどちょっと美魔女的なニュアンスを醸し出すお茶ですが、真相はともあれ、この夏は「東方美人」の魅惑の世界に浸ってみるのもよいかもしれませんね。

5.東方美人 冷茶

夏ですから、湯色の美しさを楽しむために、ガラスポットで視覚的にも楽しみながらお愉しみください。ホットでもアイスでもとても美味しくいただけます。

それでは、今年の夏も煌めく日々をお過ごしくださいね。