Brighton:ブライトン
2015-10-18
ヴィクトリアンハウスを改装中

だんだん雨がちの日が多くなり、短い秋が坂道を転げ落ちるように冬に向かう今日このごろ。しばらく工事現場に住んでいるような日々が続いています。というのも、かねて計画していたリビングルームとダイニングルームの間の壁をぶち抜いてひと間にしたからです。

ブライトンの中心部は、ほとんどが19世紀後半から20世紀初頭に建てられたヴィクトリア期に建てられたテラスハウス(すなわち長屋)です。左右の壁は両隣と共有し、そのどちらか一方に暖炉があって煙突が通っています。この家が建てられたのも130年以上前の1880年代。当時はダイニングルームの暖炉で煮炊きをして、キッチンの役目をはたしていたとか。暖房効率のために部屋を小さく分けるのも、かつては一般的。でも今ではセントラルヒーティングのおかげでオープンな間取りが可能になり、「壁抜き工事」は人気のリフォームのひとつです。

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支柱を立ててサポートしたうえで、ビルダーたちがレンガ壁をガンガンと打ち崩していくと、ものすごい量のホコリが家の中に舞い上がり、何も見えないほどに。掃除の苦労が頭に浮かびながらも、ぽっかり穴が空いたときは感慨ひとしお。とても広く感じられるし、北からも南からも外光が入るので明るくなってよかった、よかった。……しかし、ここから先はDIYの日々が待ち受けています。

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イギリスの家づくりでは、工費が高いためか、できる部分は自力でやるのが当たり前。壁紙、ペンキ塗りはもちろんのこと、タイル貼り、サンディングマシーンによる床板研磨とニス塗り、バスタブやトイレ便器の取り替え(簡単な配管工事も)、強者になると外壁の塗装までこなします。DIYのレベルがとてつもなく高い。

この工事の場合も、抜いた壁の周囲は未塗装のまま残されています。どうせだから、この部分も含めて部屋全体を塗り替えることにしました。しかしここでも、ヴィクトリアン住宅の特徴がけっこうあって、ただ平たくローラーで塗るというわけにはいきません。天井へりの装飾(コーニス)にはペンキがきれいに入らないし、壁の上部に取り付けられたクチャーレールや床と接するスカーティングボードは木製なので、ペンキの種類を変える必要があります。

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そして上下に押し開ける伝統的な形の木製窓枠は、取り外さずに塗装するのはひと苦労(取り外すと自力で取り付けできない)。ほかにも壁の湿気や、過去130年分の塗装や壁紙が分厚く重なっていたりと、強烈なクセが出るわ出るわ。

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古くなって剥がれた壁紙をほじくっていたら、おそらく1900年代初期の赤い木の実をデザインしたかわいい絵柄があらわれてびっくりしたことも。この部屋全体が木の実の絵柄で取り巻かれていたと思うと、なんだか楽しくなりました。ちょっとしたタイムスリップの気分。

塗装のほうは、白かった壁を薄いグレーに、ピンクだった天井と木製部分は白に、すっかり別の部屋のようになりました。

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グレーは高級タイルメーカーとして知られるFired Earthのペンキで、白はいわゆる「シャビー・シック」の元祖として有名なアニー・スローンのもの。両方とも最近人気があるチョーク(白墨)風のマットな質感です。カラースキームも現代的になったかな。

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レンガ造りの家は耐久性が高いとはいえ、やはり100年以上も経つといろいろな問題が出てきます。とくにブライトンでは潮風と雨の多い気候のせいで、湿気はやっかいな問題です。まわりの人に聞くと、自宅のちょっとしたリフォームや修繕をDIYした人の多いこと。街中いたるところで工事用の足場が組まれ、プロのビルダーたちもひっぱりだこのようです。

古い家に住むにはそれなりのメンテナンスが必要だし、暮らし方や趣味も時代に合わせて変わっていきます。決して大きな家ではなく、しかもテラスハウスという制約の中で、できるところから自分で手を入れて、モダンな生活スタイルに合わせて少しづつ理想に近づけていくのがブライトン流。わが家のリフォームも道半ば、築150年でも住み心地のいい家をめざして、まだまだ作業着の日々が続きます。

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