Madrid:マドリッド
2016-05-24
スペインといえばセルバンテス、死後400周年記念展覧会へ

日本では今や「ドンキホーテ」といえば量販店の代名詞になってしまいましたが(笑)、スペインでは世界に誇る名作として、いつでもどこかで 何かしらその物語や作家に触れる機会があります。今年はセルバンテス死後400周年記念ということで,セルバンテスゆかりの各地で、作家とその作品にちなんだ展覧会が行われています。中でも最もアカデミックな展覧会、スペイン国立図書館で行われている「Miguel de Cervantes: de la vida al mito(ミゲル·デ・セルバンテス、その人生から神話へ)」に先日行ってきました。

1 国立図書館

展覧会の目玉は、今回初めて揃えられたセルバンテス直筆の文書の数々。彼の直筆による文書はたった11しか現存していません。その多くは彼が役職上書いた公文書。作家の習慣や人生、ましてや小説の構想などを垣間みれるものではありません。今回の展覧会ではその11の文書を初めて一同に公開しています。

2セルバンデス11の直筆文書

ドンキホーテの中で登場人物たちは生き生きと描かれ、そのイメージは誰もが簡単に想像できるものですが、ではセルバンテス自身の人物像というのはどうなのか?セルバンテスの個人、作家としての姿、そして後世に彼はどんな風に神話化したのかを探る展覧会。作家の人生にまつわる公文書や、同時代の作家たちのセルバンテスへの送辞、セルバンテスの肖像が時代を経るうちにどうやって変わったのか、人生で多く旅をしたセルバンテスの足跡を、後世の研究者の資料や写真、関連した銅版画や絵画で丁寧に辿ります。

3セルバンデス肖像画

暗い展示室に、なかには虫食いのあとも見られる古文書が並びます。セルバンテスがアメリカ大陸に職を得ようと書いた申請書、収税使のときに記した小麦やオリーブオイルの収穫に関する報告書、納税の期限延長をお願いする文書、死の間際に枢機卿に書いた御礼など。堅苦しい公文書を見ながら、作家の生活や性格を妄想するのもまた快感です。以前、私もセビリアの古文書館を訪れたことがありますが、土地や権利書、売買や裁判記録、金銀譲渡の記録や出生届や死亡報告など、誰の人生にも公文書が溢れ、法律にがんじがらめなのは400年前も変わらない!という印象がありました。

4.セルバンテス洗礼記録セルバンテス洗礼記録

セルバンテスの人生はまさに波瀾万丈。兵士としての参戦経験あり、捕虜として 拘留生活あり、定職についても収監経験あり、結婚もし 子供ももち、旅を沢山し、書くことを続ける日々。

当時の旅の苛酷さを通り越して、あちこちへと動き回った (マドリー、ローマ、レパント、シシリア、ナポリ、アルジェリア、バレンシア、リスボン、バジャドリなどなど)彼の人生をまとめてみると、自身の生活の向上のために野心を持ち続ける男の姿が垣間みれます。同時に実際の生活での経済的困難や、心と身体に深い傷を残していただろう男が、その思い出やドロドロしたものまでをも、あれだけコミカルな 作品に昇華したのかという感慨を受けずにいられません。

黄金時代という人類史上まれに見る「バブル」を経験していたスペイン社会。その大きな潮流や経済の波に必死についてゆこうとした一個人を、 この展覧会では、資料を通じて寡黙に 表していたと思います。展覧会の入場無料も素晴らしい!近代小説の祖とも言われるドンキホーテ。近代絵画の祖と言われるゴヤもスペイン出身という符合も興味深いです。

5.ドンキホーテ、サンチョパンサ、セルバンテス像/スペイン広場ドンキホーテ、サンチョパンサ、セルバンテス像/スペイン広場

ちなみに、セルバンテスの骨は昨年埋葬されていた教会から掘り起こされ、研究が進んでいます。セルバンテスの子孫は直系ではないですが、セルバンテスの弟の家系がまだご健在。その人マヌエル・デ・パラダ氏が「スペインは歴史に対する愛がない」と新聞インタビューでスパッと答えていましたが、それもまたセルバンテス的。自嘲的な物言いが印象的です。スペイン人はよく「おれたちは自分で自分を笑うことに長けている」というのですが、その伝統も、セルバンテス以降なのかもしれません。それはスペインの強さでもあると思います。

●Biblioteca nacional de España
Cervantes: de la vida al mito(1616-2016)
セルバンデス展は2016 年5月29日まで。月〜金:10時〜20時、日,祝:10時〜14時 入場無料
演劇あり、展覧会あり、ワークショップや子供向けイベントも盛りだくさん。2016年通年、なにかしらドンキホーテ関連イベントが行われています。旅行の機会に是非。
http://400cervantes.es/en