このところ急に気温が上昇し、一気に夏になってしまったスペインですが、夏のこの時期にはお祭りも多く、人々の気持ちも盛り上がってきます。全国各地で夏の「お迎え火」を炊く6月23日夜のサンフアン祭、それから7月の有名な牛追い祭り。動物が登場する祭事というのはスペイン全国で色々とありますが、今回はその中でも まだまだ海外メディアに登場していない祭事をご紹介します。ガリシア州ポンテベドラ県サブセドの「ラパ·ダス·ベスタ」というお祭りです。
お祭りと表現するべきなのかどうか迷うこの行事ですが、古く350年前から続く伝統行事です。ガリシアは「緑のスペイン」と呼ばれるほど、南のアンダルシアや中央部のメセタとは全く違った多雨の地方で、日本の森林を彷彿させるような山深い土地。今でもアクセスが難しいような村々が多く存在します。こうした土地では昔から、牛や馬が重宝されたのでしょう。ガリシアにはまさに「どさんこ」のようなタイプの原産種の馬も存在しますし、野生馬がまだ残る土地です。
この野生馬の衛生を保つために始まったのが、このサブセドの「ラパ·ダス·ベスタ」。直訳すると「野獣の散髪」とでもなるでしょうか。野生馬を囲い込んで、そのたてがみとシッポを刈り込むのです。こうすることで寄生虫などの温床になる部分を清潔にし、馬たちの衛生を保ち、種の繁殖を守ってきたといいます。
サブセドには200㎢に渡り、約600頭の野生馬が生存しており、行事は数日に渡って行われます。第一日目。教会で祈りを捧げた後、老若男女が徒歩や馬で山へ向かいます。大勢で少しずつ野生馬を囲い込んでゆき、サブセドの村郊外の囲いまで誘導。これだけで一日かかる作業です。15km〜20kmの山道を歩くといいますから、相当ハード。散歩がてらに馬を見に行くというような雰囲気ではありません。
翌日の「クーロ」と呼ばれるたてがみ切りが祭事のクライマックス。村郊外から会場へ連れてこられた数百頭にのぼる馬たちは、3人一組の「アロイタドール」と呼ばれる男女にたてがみを切られることになりますが、野生馬のこと、もちろん何が起こるのか分からず興奮します。馬たちが最小限のストレスで済むように、アロイタドールたちは素早く作業しなければなりません。1人がまさに「馬跳び」の要領で馬の背に飛び乗ると、もう1人は馬のシッポを掴み、左右に降ることで馬はバランスを失います。もう1人は首にしがみついて、目を隠す係。そうしてあっという間に横倒しされた馬は、たてがみとシッポを切る段になると、神妙に大人しく待っているのです。
散髪後は清々しいような表情で、何事もなかったように馬は群れに戻り、 また山へ返されます。戦争で男性がいなかった時代は女性もやったということもあり、現在でもこの荒々しい行事に若い女性の参加も見えます。
動物と人間の体当たりの猛々しさ、自然と命の圧倒的な美しさに感銘を受け、アロイタドールも観客も、野生馬の気高さと強さに魅了される数日間。ケルト文化を受け継ぐガリシアの独特な性質をよく理解できる行事です。地元の郷土愛に深く支えられたこうした行事は、本当に長く続いて欲しいものだと思います。
●サブセドのラパ·ダス·ベスタス公式HP
http://www.rapadasbestas.gal/?lang=es&pag=home
2016年は7月1~4日の開催