NewYork:ニューヨーク
2015-10-08
デザインが教えてくれたこと

アメリカ国内で唯一の、デザイン専門の美術館がニューヨークにある。それは『クーパー ヒューイット スミソニアン デザイン美術館 Cooper Hewitt Smithsonian Design Museum』。自分がデザインするとなると、そこに全く興味も才能もセンスもない私だが、3年越しの改装を終えて去年暮れにリオープンしてからやっと行ってきた。そしてびっくりした。ぼんやりしている間に時代はこんなに進んでいたのか!そしてデザインとは、ここまで人をワクワクさせるものだったのか!と。

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入館すると、今年に入って導入された新兵器「ペン」が渡される。チケットも捨ててはいけない。そこに書かれたナンバーが家に帰ってから必要になるからだ。まずは、その「ペン」の鉛筆の芯にあたるところを使えば、館内の至るところに設置されたスクリーンで、インターラクティブに遊べる。

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例えば、このイマージョンルーム。スクリーン上で各自思い思いにデザインし、ボタンを押すと、部屋の壁全面に、マイ壁紙が映し出される。「すっごーい!壁紙をデザインしちゃった!」と大人も子供も大喜び。こうして自分もちょっとデザインを体験した気になると、その後に見る展示作品がぐっと身近になるから不思議。

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そして日本の古いデザイン本のデジタル化された展示などに遭遇すると、一気に鼻たかだか。

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他にもスクリーン上でいろんな色や素材を使ってテーブルやビルをデザインできたり、描いた形に近いモチーフの作品が画面に映し出されたりして勉強になる。もっとすごいのは、自分のお気に入りの作品の情報を保存できることだ。展示の横にある十字印に、この「ペン」の頭にある十字印を重ね、手に「ビビビ」っという感触が走るのを確認するだけ。果たしてその情報は一体どこに?

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ここで必要になるのが、入館した時にもらうチケット。帰宅してから、美術館のHPを開き、チケットに書かれたナンバーを打ち込めば、ペンの頭で「ビビビ」っとやった自分のお気に入り作品群が自宅のコンピューター画面にさーっと出てくる。説明もちゃんと読める。そして自分のアカウントを作ってしまえば、美術館に行くたびにその日の「ビビビ」が記録され、自分だけのお気に入りミニ美術館を作っていける。

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この日の展示で私にとって最大の「ビビビ」だったのはイギリスのヘザーウイック·スタジオの建築デザインを集めたアメリカ初の展示 “provocation” だった。 新型ロンドンバスから、上海万博での英国パビリオン、ロンドンオリンピックの聖火台、テームズ川にかかる空中公園橋、ニューヨークハドソン川に浮かぶ公園まで、その革新的なデザインと技術、自由な発想に興奮してくる。

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若い頃、自分を雇う人などいないだろうと感じていたという彼は「小さいアートならそこに温もりや手触りがあるのに、なぜ建築物になると、命を感じない紋切り型のデザインになってしまうのか」と問いつづけ、問題点という「負」を「プラス」にひっくり返すことで作品を作ってきた。

このスパンという名の椅子。転びそうで転ばない微妙な動きをする椅子があってもなくても世の中は変わらない。いや、そうだろうか。実は変わるんだと思う。現に、ドキドキ、ハラハラしながら一緒にこの危うい動きをを体験しながら、たまたまそこにいた見知らぬ者同士が、たくさんの笑顔と言葉をかわしたんだから。

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「こんなことができるんだ!」「こんなことしていいんだ!」という驚きと元気をくれる展示に、「来世ではこういう仕事をしたいな」と思わず口走る私。12才の息子が言う。「ママ、来世とか言っちゃって、バカじゃないの、今からやればいいじゃない!」

建築とまではいかなくても、古い常識や枠、とらわれが、笑顔と一緒にはずれていくような柔軟でワクワクな発想を、日々の生活の中で形にしていけたらと思う。