NewYork:ニューヨーク
2016-02-24
愛と感謝を込めて、お掃除隊に参加

長年好きで住んでいる私が言うのも悔しいけど、ニューヨークの街はかなり汚い。ニューヨーカーが1日に出すゴミの量は5万トン。エンパイヤーステイトビルの骨格と同じ量、いやちょうど一杯分になるんだとも言われている。そんな中、月に一回集まってウエストヴィレッジの一角をボランティアで掃除をしている人たちがいる。ビッグアップルビューティファイヤーズ(代表 佐藤テリーさん)の皆さんだ。私は絶大なる愛と尊敬をこめてメンバーのことをこっそり「お掃除変態」と呼んでいる。だって、ゴミが多いほど、腕がなるって感じなんだもの。

1

毎月第三日曜日の朝9時、活動の拠点であるニューヨークで人気のレストラン博多とんとんに集合する。まずはラジオ体操で体をほぐし、グループ分けをする。それぞれの担当区域を確認し道具をもって現場へ向かうのだが、「もう待てない」という風情で掃除が始まる。

2

私が初めて参加させてもらったのは2013年の秋だった。目の前のたばこの吸い殻、吸い殻、吸い殻。それだけを見つめ、躍起になってトングで拾い続けた。「なんでこんなにたくさんポイポイ捨てるんだぁ!」ふつふつとこみ上げる「怒り」。それが、車に轢かれそうになるのも気がつかないほど夢中になって拾っているうちに、ランナーズハイならず、お掃除ハイみたいなのがやってきた。

「待てよ、吸ったのはごった返す店で相当なストレスをためて仕事をしている人たちかもしれない。つかの間の休憩時間、外へ出てちょっと一服。そこでリフレッシュした彼らのサービスを私もうけて、楽しい時間を過ごしたのかもしれない。つまり私の楽しい時間は、この吸殻なしには実現しなかった、かも」という図が浮かんできた。みんなどこかでつながっている!そう思うと、あれだけ憎かった吸殻が愛おしくさえ思えてきた。生きて活動している「命」がなかったらゴミもでない。「人間ばんざい!」。その日はなんだか溢れるエネルギーを持て余し、お掃除終了後二時間かけて家まで歩いてしまったくらいだった。思えば、あれが私も見事にお掃除変態になってしまった瞬間だった。

3

その日配属されたグループメンバーの組み合わせによって、味わえるものもまた変わってくる。ベテランぞろいのグループなら、ゴミさえ道具にして、あうんの呼吸で、無言のまま太極拳みたいに履く人、受ける人が抜群のタイミングでなめらかに動く。10代の若者班長についていけば、そのエネルギッシュな後ろ姿にヘロヘロになりながらも、なんだかイキイキしてくる。毎回ちがって毎回面白い。ゴミに季節を感じ、ゴミを通しそこで過ごす人たちの生態もなんとなくわかったりして、ちょっとした探偵気分だ。

4

ベテランメンバーはそれぞれに経験に基づいた哲学やこだわり、匠の技があるようだ。冬は路上にはりついたガムが凍って暑い季節より取り除きやすい。手強い時は、まず凍ったガムを叩いて砕いて、冷たい冬の道路にへばりついて、我を忘れてガムと格闘する姿。ついつい排水溝にまで手をだしてしまう姿。無心な横顔、後ろ姿。なんだかもう「お掃除変態」などとからかうのも通り越して純粋に「美しい」と思ってしまう。

5

子供たちもがんばっている。日曜の朝なんて、行きたくない日もあるだろうに。でも「行かないとお魚さんが死んでしまうでしょう」とやってくる。以前テリーさんが、都会に住む私たちの行動が遠くの自然破壊にまでつながってしまうことを、「例えばタバコの吸殻を排水溝にどんどん落としてしまったら、有毒物質が溶け出して、やがてはそれが海まで届いて魚たちを苦しめることになるんだよ」と子供にもわかりやすいように説明したそうだ。

6

お掃除が終わっても、水を大切にしながら道具を洗ってふいてみんなで片付けるあたりがとても日本っぽい。その後のシェアで聞くメンバーの感想が実にいい。多くの人が「掃除しなくちゃ」ではなくて「掃除ができる」という言い方をする。もちろんゴミを捨ててもらっては困るんだけど、でも今のところゴミがある「おかげで」掃除ができる。仲間にも会え、世界がひろがる。街だけでなく自分の心も浄化できる気がする。暗い気持ちも一気にふっ飛ぶ。などなど、、、。そこに共通しているのはゴミを掃除することへの「感謝」の気持ち。「良いことだから」社会貢献をやりに来ているというよりは、ただただ「自分が気持ちいいから、楽しいから来ている」「いつのまにかやみつき」というのが伝わってくる。

7

そして博多とんとんのオーナーシェフ、コージさんと、だいすけさんが作ってくださるおいしいランチ。地元の日経企業や個人からの食材、金銭の寄付が支え、この活動も見知らぬ人たちの好意で成り立っている。

8

テリーさんによると、最初は「そんなところをわざわざ掃除するなんてクレイジーだ」とアメリカ人の友人に言われたし、近所の人たちの反応も冷たかったそうだ。でも10年近く続けてきて、今では近所の人がお礼や応援の言葉をかけたりハグしてくれたり、実際仲間になってくれたりするようになってきた。「怒りは怒りを伝染し何も生み出さない」。怒りや、人を裁く心を、感謝と愛と楽しさにかえて地道に続けてきた活動10年目。声高に叫ばなくても伝えていける、変えていけるものがあるんだなと、いつも感じさせてもらっている。

9