NewYork:ニューヨーク
2016-06-07
7人の若手アーティストが集結。日本の茶事の心に触れる

NYにいる私が言うのもなんだけど、思いっきりおおまかに言って茶事には、懐石料理、酒、掛け軸の書、花、和菓子、お点前、それらを支える器が必要。この7つの分野で、伝統を守りながらも未来につなぐ「今の形」を追求し世界に発信している若い世代のアーティスト7人がNYに集結した。題して「侘びと今ー輪」。数々のワークショップなどが行われたが、私は 「Dinner: Wabi and Now 」 に行ってきた。会場はNYダウンタウンにある寿司懐石レストランKosaka 。

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まずは懐石。掛け軸は、書家根本知さんの新作。

2掛け軸

お品書きまでが作品。陶芸作家二階堂明弘さん作の器で、青木藤子さんの懐石料理を、冨田酒造「七本槍」厳選4種の日本酒とともにいただくという贅沢。

2+お品書き日本語

二階堂さんは、日本、NY、パリ、ロンドン、ミュンヘン、台北、北京などで年に十回以上精力的に個展を開いており、NYでも6月18日までCavin Morris ギャラリーで個展開催中の陶芸作家。青木さんは京懐石を基にNYの素材をいかしたケイタリングと和菓子のフードプロデューサーとしてNYを拠点にして活躍している。すいかと土佐酢ジュレにジュンサイの箸休めがこんなにおいしいなんて!

3上左:陶芸家二階堂さん。上右;すいかと土佐酢ジュレとワサビのジュンサイのせ。下左:二階堂さんの器と青木藤子さんの懐石。下右:左は青木藤子さん、右は和菓子の坂本紫穂さん。

冨田酒造七本槍は、滋賀県湖北で15代続いている酒蔵。地元の湧き水と無農薬米を使い、450年経った今も昔ながらの製法で酒づくりをしている。15代蔵元の冨田泰伸さんが大事そうに注いでくれる。ピュアでまろやかで健やか。本当においしいお酒。食器では脇役に徹する二階堂作品。料理が、酒が、際立ちながら器も美しい。

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食後は書家の根元知さんがNYで詠んだうたをNYで入手した紙に書き、華道家の平間磨理夫さんが、二階堂作品の花器に花をいけるパフォーマンス。「せっかく咲いていた白い花を全部落として、またわざわざ別の白い花をもってきて生けたのは何故?」というアメリカ人の問いに、平間さんは「ショックな感覚も含めて、時のうつろいの中での自然の変化を表現したかった」と答えた。そうか、最終的に完成する作品もさることながら、そこまでたどりつくプロセスそのものが全部平間さんの表現、パフォーミングアートだったのだ。本番数時間前にNYのストリートに落ちていた木片を花器の下に置き、NYとのつながりも加味してあった。

5..花パフォーマンス平野さん

根本知さんは、書道学の博士号をもつ書家。美しい作品を生み出す長身の美男子は墨をする姿も清々しい。「日本人はずっと、例えば自然の中でその美しさに感動すればそれをうたに詠んできたのだから」と、自作の和歌をNYでもとめた紙にしたためた。「境なく 和えてうまれる 旨味こそ 日本に生きる 心なりけれ」

6.書家根本さん 和歌「境なき、、、」

その後は、坂本紫穂さん作の和菓子。あまりにも美しくおいしい雨の「ひとしずく」をいただく。坂本さんは日本、NY、ミラノ、韓国など和菓子づくりのデモンストレーションやワークショップを積極的におこなっている。

7和菓子 坂本しほさん8)和菓子 ひとしずく

そして、茶人森宗碧さんが点てるお抹茶を二階堂さんのお抹茶茶碗でいただいてしめくくった。

9)茶人 森宗碧さん

茶道への長年の熱い想いとユニークな視点をもち、NYでここ5年果敢にお茶の世界をひろめてきた宗碧さん。コンテンポラリー茶の湯アワードで、すぐれた茶人に与えられる賞も受賞している。7人のまとめ役として、連日のイベント実現に向けての裏方の雑事から当日の進行通訳まで担当した。ご主人と二人三脚で二度目の開催。「去年蒔いた種に水をやるように今年も開催しました。一度ではつたえられないことをできるだけ継続して開催しNYで一人でも多くの人たちにつたえていきたいという想いがあります」と語る。

その夜参加した日本人は、私と友人の二人だけだった。たまたま隣に座ったアメリカ人のご夫婦と七本槍を酌み交わし、意気投合する。彼らは「旨味」”umami”という言葉も意味も知っていた。奥さんのハリーさんは、ご両親が昔日本とビジネスをしていて、小さい時から日本のお菓子や文化に触れていたそう。小学生の頃にNYで見たお点前に衝撃をうけたという。「あの時、、、あぁ、私はシェフにもお花屋さんにも画家にもお菓子屋さんにも陶芸家にもダンサーにもなりたいって思ったの」と話してくれた。ここでいうダンサーとは日舞ではなく、その時お点前をした茶人の体の動きの全てが、まるで美しいダンスのようだと幼心に感じたという意味。お茶の世界に関係する全ての分野でおおいに感性が刺激されたということらしい。

10)ハリーさんと

そもそも贅沢な会だったけれど、日本文化を「感じ」「わかって」敬意を表してくれる異国の人たちと、それを分かち合えることが本当に嬉しくて、全ての喜びが倍増した。一夜明けそんなメールを送ったのと同時にハリーさんからは、「ゆうべのことを思い出すたびに今もしらず笑顔が溢れてくるの」とメールがきた。メールの件名は「umami new friends」。新しいうまみ友達。

「境なく 和えてうまれるうまみこそ 日本に生きる心なりけれ」

和えてうまみがでるのは料理だけではない。根本さんは和歌に加えてもう一字「結」と書いた。ご縁で結ばれたこれからの日本伝統文化を担う7人の若者達が作り出す世界の中で、たまたま同じテーブルにつき、袖触れ合うも他生の縁。文化、言葉の境なく出会った人と想いが調和し、深いところで心が結ばれる感覚を共有する。そんな一期一会な瞬間も人生の「うまみ」にちがいない。今頃になってNYの地で日本の茶事の心が少しわかった気がした。

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Some photos by Junya Mori