NewYork:ニューヨーク
2015-11-02
NYの美味しいパワースポット

NYのパワースポットはどこ?と聞かれたら迷わず「ファーマーズマーケット」と答える。「歩いているだけで、元気になる」と言う人が、私の周りにもけっこういる。ファーマーズマーケットは40年も前に、Grow NYCという非営利団体が始めた。作り手と消費者を直接つなぐことで、近郊の小さな農家、農場の生き残りを支援し、同時に消費者が新鮮かつ安全で栄養価の高い食物を食べられるようにと、ミッドタウンの駐車場にたった12件の出店でスタートした。それが今やニューヨーク市内だけで50カ所、230の農家や漁師が参加し、その規模も種類の豊かさもアメリカで最大の青空市場に成長した。

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中でもマンハッタン内ではここユニオンスクエアで月、水、金、土と週4日開かれているものが有名で、ピーク時には1日6万人もの人が訪れる。有名レストランのシェフたちも朝一番に買いにくる。

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NYの高級レストランでシェフとして働いたのち、現在はTama’s kitchenを主宰している、たまバッチャーさんは、季節ごとに日本語でマーケットツアーを開催している。盛りだくさんの内容に毎回募集告知日に即満席になる人気ツアーだ。

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それに何度も参加するようになってだんだんわかってきた。まずはなんといっても、そこに並んでいる作物たちが持つエネルギーそのものが全然違うのだ。全部ではないが、その多くが無・低農薬、自然農法で育てられている。自然が持つもともとの力をなるべく活かした方法で育てられた作物。色も形もさまざま。整形美女に外見では負けても、中に秘められてる命の力が違う。それが伝わってくるんだと思う。手のこんだことをしなくてもそのままでおいしい。舌や胃袋だけでなくもっと深い所へ届く気がする。「お腹いっぱい食べなくても、少量で満足できるんです」とたまさんも言う。

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出店するにはマンハッタンからの一定の距離範囲内に所在していなければならないし、パン、お菓子なども近郊でとれた小麦粉を使用しなくてはいけない。つまりは全てが地産地消。フードマイリッジ(食料の輸送距離、遠くから運ばれてくる食品ほど輸送時に地球環境に負担をかける)も限りなくゼロにちかい。近くで採れたばかりの作物はやっぱりおいしいく栄養価も高い。その上地球にもやさしい。

手間ひまかける、つまり手作りな分、お値段は当然大量生産の大手スーパーより高くなる。卵は倍はする。値段だけみれば確かに高い。でも、例えば野菜を育てる時、防虫スプレイを噴霧する代わりに鶏に食べてもらっている農家が売る卵がある。畑を走り回っているハッピーな鶏から生まれた卵と、狭い場所に閉じ込められ固定され、「卵を産む機械」にされてしまった鶏から生まれた卵。見た目は似ていてもその中身は違う。家族の体に果たしてどちらのエネルギーを入れたいか。

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たまさんは毎回ツアーで伝えて続けてきた。「安いからと、その卵を買い続ければ、非道な扱いを受ける鶏は増えるばかり。私たちがどこで何にお金を使うかは投票と同じ。地球の未来がそこで決まってくる。」

意識ある農家の農法は環境にもやさしい。そんなNY近郊の小さな農家たちの生活を、中間搾取されないシステムが支え、彼らも畑を土地開発に売らなくてすむ。無関係なようにみえて、マンハッタンのファーマーズマーケットで私たちが買い物をすることが、NY近郊の景色を支えることになる。豊かな自然を次世代に残すことにつながっていく。こぶしを振り上げなくても、日々の生活の中で、静かに変えていける未来がある。

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マーケットには、日本で見た事もないような野菜もたくさん売られている。店の人やそれを買っている人に「どうやって食べるの?」と聞いてみたらいい。知らない同士でやけに話が盛り上がったりして楽しい。作り手と仲良くなれば、こっそり裏からとっておきを出してくれたりすることもある。自分次第で、なんだか懐かしい昔ながらのコミュニケーションを、大都会の中で味わえる場にもなる。

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ある時、イケメンの作り手に、「よし、今日はこの素材で冒険してみるわ」とオーバーなことを言ったら、彼はさらっと返した。「そういうことこそが人生のスパイスだよね」

最近は、健康食に関する情報が溢れすぎて却ってストレスが増えたりする。「ファーマーズマーケットにきて今なんとなく食べてみたいなと思ったものが、今のあなたに一番必要なもの。それを食べていれば大丈夫。」とたまさんは言い切る。

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素直に自分の声を聞いてみる。自分の中にある感覚を信じる。なんと!ファーマーズマーケットは、自分軸を取り戻せる場所でもあったのだ。料理人である彼女がすすめる料理法とて同じこと。料理が苦手な私は、レシピが先にあってマーケットにはその材料を買いにいくものだと思っていた。ここでは、自分の心がときめく素材が先にあって、それを、他の誰でもない自分が、まさにどう「料理」していくかを決める。人が作った「正しい」とされるものに近づく努力ではなく、自分を信じてやってみる冒険。失敗してみる勇気。まるでアドベンチャーワールドじゃないか。実りの秋、寒さ厳しい季節が始まるまであと少し、私のおいしいパワースポット参りは続きそうだ。

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