NewYork:ニューヨーク
2016-07-07
不思議の国のお茶会、その自由な発想に勇気をもらう

NYはクイーンズにあるイサムノグチ・ミュージアムで、『Tom Sachs: Tea ceremony』 (トム・サッシュ氏の茶道)というタイトルの展覧会が開かれている。今年はイサムノグチミュージアムオープンから30周年。イサムノグチ氏以外のアーティストの展覧会が開かれるのは今回が初めて。

1イサムノグチの彫刻とサッシュ氏の池

トム・サッシュ氏は現在のアートシーンで最も注目されているアーティストの一人であり、ブリコラージュの第一人者でもある。ブリコラージュとは雑多な物や情報などを集めて組み合わせ、その本来の用途とはちがう用途のために使う新しい物、コトを生み出すことだ。身近にあるがらくた、廃材、安価な素材が、サッシュ氏の手によって姿を変える。そのアイデアが、日本の伝統工芸職人を彷彿とさせる技術ゆえに実現し、見る者を驚かせ楽しませる。

例えば、イサムノグチ氏の大きな石の彫刻を借景にした茶庭には大きな灯篭があるのだが、よくよく見ると、実は業務用バケツやアイスクーラーを組み合わせてできている。見事な枝ぶりの松のブロンズ像もよくよく見ると、枝は歯ブラシと生理用品、松葉は使い捨て耳かきで精巧に作られているし、木の板で作った池には鯉だって泳いでいる。

2サッシュ氏のプリコラージュ作品

茶の道に精通している人も文句がつけにくいほどにちゃんとツボを押さえてある。でも、同時にサッシュ氏の作品群は、やんちゃ坊主のようなエネルギーをもって、とってもアメリカンなプライドをはっきりと残していて、その絶妙なバランスがお見事。

3ガス会社のバリケードでできた待合

このガス会社のバリケードで作られたお茶室で、サッシュ氏による茶会が開かれるというので行ってみた。茶席に座ろうと前もって申し込んだ人は私も含めて200人。そんな中から、女性3人が選ばれた。「三つの戸をくぐりぬけるたびに、いらないものを脱ぎ捨てる。その末に飲むお抹茶の味、騒音も含めて全ての経験を味わってね」というサッシュ氏の説明とともに始まった不思議の国のお茶会を、私たち一般の訪問客たちも外から垣間見ることができた。

4お茶会風景

お道具もお菓子も全てサッシュ氏作。最初の主菓子の銘は「Brown wave」「茶色い波」。その銘のごとく波をかたどったそのお菓子は、なんとピーナッツバターを、リッツクラッカーに乗せたもの。嘘かまことか「この完璧なる波の形をマスターするために5000回練習した」らしい。

5サッシュ流のお道具&ヨーダのペッツお干菓子

二つ目のお菓子はオレオクッキー。干菓子はスターウォーズのヨーダのディスペンサーに入ったペッツキャンディー。アメリカの代表的庶民のお菓子が堂々の続投。それらがうやうやしくおごそかに振舞われる様子が日本人としては複雑でもあり、目からうろこに痛快でもあり。

6オレオクッキー味わい中

茶会の前に展示室で気さくに訪問客と話をしていたサッシュ氏に聞いてみた。
「今までのところお客さんたちの反応はどうですか?」
「ちょっとがっかりしてるんだ。思ったほどみんなが怒らないんだよ。もっと強烈に攻めてもよかったのかな」と笑う。もうひとつぶつけてみた。
「茶道に対して一石投じてやろうという想いもおありですよね」
「誤解しないでね。ものすごい敬意の念をもってるよ。茶道そのものでなく、そのあり方に対するプロテストなんだ。エリーティズム(エリートだけが楽しめる世界というあり方)へのプロテスト」

7.釜と悟りまで後何秒?と皮肉ったクロック

サインしてもらったサッシュ氏の著書「Tea Ceremony」を胸に抱きしめて「バイブルにします!」と言う私に彼は ”Make your own!” 「僕のまねじゃなくて、君自身のものをつくるんだ!」 と言った。

いやそんな、まねできないし、、、。
「この展覧会で感じたスピリットをバイブルにするという意味です。お茶の世界の敷居があまりにも高すぎる。純粋に楽しい部分をもっと多くの人と分かち合いたいと思って少々あばれたりもするけれど、(私ごときが!)という自分の中の批判とも戦っていて。でもそんな私にこの展覧会は勇気をくれたんです」と思わず言ってしまった。サッシュ氏は左のこぶしを小さく強くふり、「それだよ、それ。それをこそを持って帰って欲しかったんだ」

8.お抹茶の蓋を開けた瞬間の緑の美しさをフラッシュライトで見せる

「千利休は、茶道界のモハメッドアリだから」と、モハメッドアリの肖像とともに、彼が残した有名な言葉が掛け軸にカタカナで書かれている。
“It’s not bragging if you can back it up.” ちゃんとした裏付けがあれば、それはもはや自慢ではない。

9掛軸とサッシュ氏

愛し尊敬し偉大すぎる対象であっても、のまれない、巻かれない、流されない。「いいんだ!」という開放感と、だからこそ真摯に学び続けようという気持ちが同時にこみ上げてきた。ハートがひろがり、身がひきしまる。ミュージアムの外に出た途端、どこかに向かって思いっきり走り出したくなるようなミュージアム体験だった。