Paris:パリ
2016-11-10
「顔」を客観的に見ることで知る自己肯定の術

まだハイハイもままならないような赤ちゃんが、保育園のお友達と自分とを比較して、”私より彼女の方がお目々 パッチリでずっと可愛いいの可愛くないの・・・”とクヨクヨ悩むだなんて話し、聞いたことないですよね。

でも、そんな子もいつか成長し、自分と他人の「顔」との明らかな違いに気づくなど、自分が唯一無二の存在であるというアイデンティティを確立しはじめる頃になると、事情は変わってきます。
過剰に自分を意識する思春期ともなれば、オトナの目には滑稽とまで映るほど外見の美醜に拘りを持ち、自信が持てず、思いつめるあまり精神不安定になってしまうことさえあって・・・。

ところで、自分の顔を自身の肉眼で見ることって、決してありません。「自分独自の顔」とは、他者に見られてようやく用を成し始めるもので、この顔が社会生活上、<私>という人格の大きな拠り所となります。

実際、私達は互いの顔が持つあらゆる情報、輪郭、眉目鼻口の形とそれらの顔の中での物理的配置、皮膚の色艶や皺深さ、髪型、等々の特徴を瞬時に読み取り、分析し、個人を特定し合い、また、表情の変化により内心で起こっている喜怒哀楽の感情を伝え合いながら、その場に相応しい振る舞いを(無)意識的に選択し、円滑なコミュニケーションを試みています。

私がこんな風に、「顔」について思いを巡らすようになったのは、昨年11月パリにオープンしたレストラン『EnYaa』が催したパーティーに駆けつけたアートディレクターの徳田祐司さんから、1928年生まれの世界最高齢スーパーモデル、ダフネ・セルフさんと一緒に過ごした時間が彼にとってどれだけ有意義なものであったか、という話しを聞かされたことがきっかけでした。

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徳田さんは、パリ発ビューティーサロン『THE BOOK 青山』のトータルデザインも手がけていて、ダフネさんはこのブランドのイメージモデルなのだとか。そして、サロンのメソッド開発を行う『KAODACHI研究所』の基本コンセプトとは、<表面的な若さや”万人にとって理想的で完璧な美”の概念に捉われず、個人史の中から滲み出てくる本質的な美しさを見出すお手伝いをする>というようなことでしょうか。

顔面の骨格が成長を終え、そこから幼児性が消えて以降、「顔」の基本的な作り自体にはほとんど変化はないようです。が、「表情」は社会との関わり合い方、心理状態などを反映しつつ変化し得るもので、たとえば過去に強い不安や悩み事などを抱えた経験があれば、それはネガティヴな印象を与えるものとして現在の顔の何処かに居座っていることがあるかもしれません。

『THE BOOK 青山』では、自分の「顔」の有様を客観的に観察してもらうことにより 、もしかしたら自覚しきれていないのかもしれない心の問題点を浮かび上がらせ、その解決をはかることから始めるのだそうです。その上で、「加齢」を否定せず「成熟」とみなし、肌の皺やシミさえも「生き様を映し出す個性」として受け入れる。そのような自己肯定の術を知れば自然と仕草や振る舞いに自信が溢れ、そしてそのポジティヴな信号を読み取る周囲の人々の気持ちさえも向上させる。まさに、ダフネさんの生き方そのもののような気がします。

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徳田さんとは実は約25年ぶりの再会でした。再会した瞬間に思ったのは、「これこれ、徳ちゃんのこの、笑ってるくせに、どこか困ってるような泣いているような独特な表情、懐かしいなぁ」。若い頃の私は彼のこのビミョーな表情が実はちょっと苦手だったのですが、いつの間にかふたりの子の父となり、独立して自分のデザイン事務所を構え、世界をまたに掛ける仕事をするまでに至った、そんな私の知らない四半世紀分の人生経験が蓄積して少し風合いの変化した顔の上をこの表情がさっと走ると、この2017年が40代最後の年となる徳ちゃんが妙に少年じみて見え、そしてそれがなぜだか、”いい人生送ってるんだなあ、この人”という印象を強く私に与えるのでした。

今年で設立10周年という節目を迎える『canaria』のボス、徳ちゃん。ずいぶんと味のある中年の顔を手に入れたものだね!

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