Stockholm:ストックホルム
2016-03-09
ノーベル賞晩餐会のコーヒーも飲めるカフェ兼オフィスに注目

ある寒い日の夕暮れ時に見つけたカフェ。扉を開けて中に入ってみると普通のカフェとは違った雰囲気で、どこかのオフィスを思わせる内装。さっきまで私の隣に座っていた人が、他の部屋にいる人と話し出した。「あれ?ここに居る人たちは皆知り合い?」好奇心をくすぐられてお店の人に聞いてみると、ここ『ヨアン&ニーストゥルム アット ワーク Johan & Nyström at Work』では、カフェの「机」をワーキングスペースとして貸し出しているのだそう。

ノーベル賞受賞晩餐会で4年連続コーヒーを提供し続けているコーヒー屋さんが提供するこの空間。カフェとワーキングスペースが融合するに至った経緯とは?『ヨアン&ニーストゥルム』代表であり、またバリスタ チャンピオンシップ世界大会の審査員でもある、ヨアン・ダムガード(Johan Damgaard)さんにお話を伺いました。

1.ヨアンさん1

ヨアンさんのお話を紹介する前にまず、皆さんはスウェーデンでどれくらいコーヒーが飲まれているのかご存知でしょうか? インターナショナル コーヒー オーガナイゼーションによると、2014年度の国民1人当たりの年間コーヒー消費量は10.4kg。日本人1人当たりの年間消費量は3.54kgなので、日本人の3倍以上のコーヒーを飲んでいるのです。この数字からも見てとれますが、スウェーデン人はコーヒーをとても愛する人たち。フィーカ(Fika)といって職場やプライベートで15時頃にコーヒータイムを楽しむ習慣もあります。

2._コーヒーブレイクPhoto@johan&nyström

そうした中で、『ヨアン&ニーストゥルム』はより質の高いコーヒーをスウェーデンに広めることを目指して、ストックホルム郊外にある焙煎工場でコーヒー豆をローストし、レストランやホテルに卸売販売することから始めました。さらに多くの人にもその味を気軽に楽しんでもらいたいと、コーヒーを販売するフラグシップカフェも5年前にソーデルマルムエリアにオープン。彼らのコーヒーを好きだと言う人の数が増え始めた頃、 企業向けにも良質なコーヒーを届けたいという想いが芽生え始めます。

3.焙煎Photo@johan&nyström

そこで 『ヨアン&ニーストゥルム アット ワーク』という企業顧客向けショールームが、クングスホルメンエリアに建てられたのでした。始めた当初は、今のようなカフェスペースやワーキングスペースを貸し出すサービスはなかったと言います。「ここは元々、コーヒーメーカーをお客様へ紹介するためのショールームでした。ショールームって製品だけが展示されていて、少し活気に欠けている印象がありませんか?そこで思いついたのが、実際のオフィスのような環境を作ること。そうすることで、訪れるお客様にコーヒーメーカーを試してもらう際、自分の職場でコーヒーを飲んでいるかのように感じてもらえる。そのためには、この場所をもっと人の動きや温かさのある場所にする必要がある」

そこで『ヨアン&ニーストゥルム』の社員が仕事をするオフィススペースと、一般のお客さん向けに解放するカフェエリアもつくられ、常に活気溢れるショールームが出来上がったのでした。

4.店内1

しばらくすると、お客さんからミーティングルームを貸して欲しいという依頼が増え、当時社員用に使われていた会議室の貸し出しと、カフェの机をレンタルするサービスも始まり、今の形になったのだそうです。コンサルタントや自営業者の人たちがワーキングスペースとして使う小部屋は、ヨアンさんこだわりの60年代のアンティークランプが心地いい明るさで部屋を照らし、ガラスの仕切り壁には、焙煎工場をイメージする鉄素材の組子が施されています。

もちろんwi-fiやプリンタが使えてコーヒーのおかわりは自由。会社のオフィスではなく、カフェで仕事をするからこそ、他の起業家とのネットワークも広げられ、出会いの場にもなっているようです。初めて私が訪れた時に、どうしてカフェに居るお客さん同士が知り合いだったのか、その謎が解けました。

5.店内2

フィーカの時間は仕事場にもあり、多くの会社で午前と午後の2回、15分程のコーヒータイムが設けられています。スウェーデンの職場におけるフィーカの意味をヨアンさんに聞いてみたところ、「そこで働く人たちに、気持ち良くいい仕事をしてもらうため」と教えてくれました。いい職場には優秀な人材が集まり、いい組織で成長した社員は長く働き続けてくれる、と会社側は考えているのだそうです。

6.焼き菓子

パソコンと携帯があれば場所を問わずどこでも仕事が出来る時代にあって、『ヨアン&ニーストゥルム』が提供するようなサービスはどんどん必要とされていくのだろうけど、ここがユニークなのは「こうであるべきだ」という形に捉われない自由な発想にあります。お店に入った瞬間「ここはカフェ?オフィス?」と疑問に感じてしまうくらいワーキングスペースとカフェ、社員と一般のお客さんの境界線が見えないのです。

「最初はよくお客さんから「ここは何をするところ?」と聞かれていました。そういう時は、こちらからお客さんに「何をするところだと思いますか?この空間を使ってどんなことがしたいですか?」って聞いています。そうやって自由に考えてもらえる空間をつくることに意味があると思うから」

7.店内3Photo@johan&nyström

うーん。面白い。これから新しい何かが生まれる場所に居合わせているようでワクワクしました。そして「ユニークであること」を大切にするスウェーデンの価値観の「形」が見えたような気がした1日でした。ヨアンさんはいつも10年後、20年後のカフェの姿を考えているのだそう。形に捉われない彼らが近い未来、どんなお店をつくりだしてくれるのか楽しみです。

8.外観1

●Johan & Nyström at Work: Hantverkargatan 7(観光名所の市庁舎から徒歩3分)
Johan & Nyström concept café: Swedenborgsgatan 7
http://johanochnystrom.se/en/