Stockholm:ストックホルム
2016-05-25
人と人のつながりで守られているハンドメイドブラシのお話

「1日をキチンと過ごすことが出来た」。そう思わせてくれるアイテムに出会いました。スウェーデンの老舗『イーリスハントヴェルクiris hantverk』のハンドメイドブラシです。お部屋の掃除や靴磨き、バスタイムに使うブラシは日常の一コマに何気なく登場するから、あまり目に留まることがなかったというのが本音。だけど、胸が熱くなるストーリーを聞いて、今回もまたスウェーデンのモノづくりの世界に魅了されました。

ストックホルム中央駅へと伸びる大通り・クングスガータン(Kungusgatan)にあるお店。『イーリスハントヴェルク』の店頭には、キッチンやバスルームに思わず取り入れたくなる生活雑貨が並んでいます。その中でも豊富なのがブラシの種類。PC用ブラシから、ちり取付きブラシ、洗顔用ブラシにボディー用ブラシなど、日常の様々なシーンに合ったブラシが揃っています。キノコ用ブラシはスウェーデンならでは。

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自然素材が使われたブラシの持ち手部分はスウェーデンの森に育つ白樺やオーク。馬毛やココナッツ、サボテンの繊維など、用途にあったブラシ素材が選ばれます。お店の名前であるイーリスは眼の中にある「虹彩」。ハントヴェルクは「クラフト」という意味で、目の不自由な職人さんがハンドメイドでブラシを作っていることが名前の由来です。

4_ブラシ2

職人さんたちが働いているモノづくりの現場はストックホルムの南、エンフェーデ(Enskede)にあります。今回、 オーナーのリカード(Richard)さんと勤続年数25年の職人オーケ(Åke)さんにお話を聞いてきました。

1.作業1

北欧諸国において、ブラシ作りは以前から視覚障害をもつ人たちの仕事として定着していたのだそうです。現在では電話営業など、目の不自由な人たちが就く仕事も多様化し、ブラシ作りに携わる職人は減ってきているそう。そうした中で、『イーリスハントヴェルク』は146年続く伝統を守り続けています。そこで働く人たちの信念と誇りが紡ぐ伝統です。

3.作業2

というのも2012年まで、お店は国からの補助金を受けながら運営されていました。しかし、2012年以降の補助金打ち切りが決まり、不安定な経営状況が懸念され、お店が海外へ売却されることになってしまいます。それは工場の海外移転を意味し、今まで働いていた職人さんの解雇、そしてエストニア視覚障害協会と始めていた協働関係にも終わりを告げることにもなります。

5.道具

売却されるというその日、当時社員であった現オーナーのリカードさんとサラさんは自分たちが『イーリスハントヴェルク』を経営していくと決心し買い取りました。彼らによって、1870年から続くスウェーデンの伝統工芸、そして職人さん達の仕事場が守られています。「まだまだこれからだよ」リカードさんが爽やかな笑顔で話してくれました。

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職人のオーケさんにブラシ作りの様子を見せてもらいました。長年の経験を持つ彼にかかれば、ホールが86個ある靴用ブラシも7分で出来上がってしまいます。つまり1ホール4秒のペースで毛束が結い付けられていきます。仕事を着々と進めるオーケさんの隣には盲導犬のグッチー。彼女はお腹を撫でさせてくれるほど、人懐っこくて賢い盲導犬です。

7_オーケさんとグッチー

オーケさんはブラシのデザインについても話してくれました。長年この国の人達の生活に寄り添ってきたブラシは握り易く、そしてお部屋の何処にでも置けるようにデザインされています。ここにもSwedish Designがキラリと光ります。 

8.店内2

優しい曲線と素朴な色合いが印象的なブラシ。そこにはオーナーと職人の信念が込められています。

9.

●イーリスハントヴェルクiris hantverk
http://www.irishantverk.se/
クングスガータンの店舗: Kungsgatan 55 最寄りの地下鉄Hötorget駅から徒歩3分
旧市街の店舗: Västerlånggatan 24 最寄りの地下鉄Gamla Stan駅から徒歩5分