街をぶらりと歩いていると1800年代に建てられた歴史ある建物に出会うことがよくあります。日常のふとした瞬間に、200年前の趣を感じることが出来るのは、ストックホルムの魅力の一つと言えます。そして、この街にはもうすぐ築150年になる教会をオフィスとして使っているユニークな会社があります。2月に紹介したSASコーヒーポットをデザインしたヴェリデイ社(Veryday社)です。「使う人のためにデザインする」という彼らの仕事も素晴らしいですが、オフィススペースがまたかっこいい!ということで、市の重要建造物に指定されているという素敵な仕事場を覗かせてもらいました。
地下鉄の駅から住宅街を抜け、ちょっとした森の小道を進むと 黄色い建物が見えてきます。そこがVeryday社のオフィスです。まるで誰かのお屋敷を訪ねて来たかのような外観。それもそのはず。1867年、スウェーデン人建築家のパール・ウルリク・ステーンハンマル(Per Ulrik Stenhammar)によって建てられたこの建物は、当時キリスト教の海外布教を目指す宣教師たちの学び舎として建てられたものだったのです。こうした歴史的背景、そして美しいゴシック様式が施された建物はストックホルム市より重要建造物として保存指定されています。
入り口から続くデザイン商品の展示スペースを通り抜け2階へと進むと、臙脂色の手すりが白い壁に映える階段があります。踊り場にはウォールアートが施されていて、一瞬どこかの近代美術館に来たかのような感覚に陥ります。社員さんたちが仕事をするスペースは2階と3階にあります。以前、祈りを捧げる場として使われていた教会の天窓からは太陽の光が注がれます。フロアの天井は高くて 開放的。
コーヒータイムやランチで憩いの場として使われるキッチンは間接照明で落ち着いた雰囲気。目があう人は皆少し微笑んで挨拶してくれる、とっても心地よい時間が流れていました。
柔らかな空気が流れる中、デザイナー達は10年後、20年後、もっと先の未来を見据えた研究とデザイン開発に励んでいます。今後は更に「体験をデザインする」ことにも力を入れていくと、広報のヨハンナ・ドゥーネルフェルトさん(Johanna Dunerfeldt)が話してくれました。 より良いサービス提供を手助けする彼らの仕事は、病院の待ち時間短縮といった医療分野でも活かされています。
常に一歩先を行くデザインを提案し、インダストリアルデザインシーンを牽引するVeryday社。こうした新しい発想は百数十年以上もの歴史ある建物の中から生まれているのでした。
働く場所を機能性だけを重視して作り上げるのではなく、建物の長い歴史を愛しながら心地よくお洒落な空間にデザインしてしまう彼らのセンスに心奪われます。
⚫Veryday社
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