cinema
2016-03-23
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#11名優シャ―ロット·ランプリングが狂おしい嫉妬を熱演

今年のアカデミー賞は、レオナルド・ディカプリオの悲願のオスカー受賞が最大の話題となりましたが、みなさまのご贔屓監督やスターの結果は、いかに相成りましたでしょうか。『キャロル』のケイト・ブランシェットや、『JOY』のジェニファー・ローレンスら、華やかなスターが競った主演女優賞で、私がオスカーを獲ってほしいと願っていたのは『さざなみ』のシャーロット・ランプリングでした。

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60年代、スゥインギング・ロンドンを象徴するアイコンであり、『愛の嵐』のデカダンなルックスで今なおカルト的な人気を誇り、フランソワ・オゾン監督の『まぼろし』や『スイミング・プール』でスクリーンの最前線に華々しく返り咲いた伝説の女優。そのランプリングが『さざなみ』で演じるのは、夫ジェフとの結婚45周年のパーティーを週末に控えた妻ケイト。

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長年、仲睦まじく暮らしてきた二人でしたが、ケイトがパーティー準備に追われる月曜日、ジェフの元恋人カチャの遺体が見つかったという手紙が届きます。冬山のクレバスに落ち、50年以上の間、凍っていたカチャの遺体は、雪溶けによって、亡くなったときのままの姿で発見されたと。

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ジェフとカチャの関係は、ケイトがジェフに出会う前のこと。それでも夫が亡き恋人を「僕のカチャ」と呼んで、馬鹿正直に昔を語り出した途端、ケイトの中で長年の信頼が音を立てて崩れ、狂おしい嫉妬の情が頭をもたげてきます。

映画のキャッチコピーは“妻の心はめざめ、夫は眠りつづけるーー”。まさしくこのコピーが言い当てる男女の感覚、結婚・恋愛観の違いを炙り出すドラマで、忘れかけていた生々しい感情に翻弄され、怒り、悟るケイトを圧巻の佇まいで演じるランプリング。プラターズの「煙が目にしみる」や、タートルズの「ハッピー・トゥゲザー」がアイロニカルに流れるクライマックスのパーティで、美しきカルト女優が見せるヒリヒリするほどスリリングな演技をご覧あれ!

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ところで、この見事なランプリングをも退け、本年度アカデミー賞を受賞したのは、前作『ショート・ターム』で注目され、気鋭レニー・アブラハムソンによって『ルーム』のヒロインに抜擢されたブリー・ラーソン。若き新進女優が絶賛を浴びた役どころは、とある“ルーム”の中で、5歳の子どもと暮らす若き母親ジョイ。ゲーム感覚と愛に溢れながらも、どこか閉塞的な彼らの暮らし。そして、突然現れるオールド・ニックという謎の男……。

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彼らの関係と状況が少しずつ明かされ、親子が“モンテ・クリスト伯”計画を実行に移すくだりは思わず手に汗握るサスペンス!そんな急展開を経て、ジャックの発見とジョイの葛藤の日々が始まります。

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26歳の若さでオスカーに輝いたラーソンは、想像を絶する境遇を乗り越える母と子の絆を入魂の演技で表現し、観客の涙を誘います。実話から発想得て、英国ブッカー賞の最終候補作になったベストセラー小説「部屋」を原作とした『ルーム』は、事前情報を最小限にして観てほしい驚きと感動の物語です。

●『さざなみ』
監督:アンドリュー・ヘイ 
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ、他
4月9日よりシネスイッチ銀座ほか全国で順次公開
配給:彩プロ 
http://sazanami.ayapro.ne.jp/
Photos ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

●『ルーム』
監督:レニー・アブラハムソン
出演:ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ウィリアム・H・メイシー、他
4月8日よりTOHO シネマズ 新宿、TOHO シネマズシャンテほか全国で順次公開
配給:ギャガ
http://gaga.ne.jp/room/
Photos©ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015