cinema
2016-11-22
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#16 軽やかに生きた実在の女性たち。その魅力に学ぶ

公開中の『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』は、ご覧になったでしょうか。11年ぶりにヒロイン復帰のレニー・ゼルウィガーは、前作『砂上の法廷』ではあまりにお顔が別人で、彼女だと気づかないほどでしたが、どうやったのか、『ブリジット・ジョーンズ〜』ではお顔復活。映画の方も相変わらずの自虐的ユーモアで笑わせてくれます。公開直前に来日したレネーは、ぽっちゃりが定番のブリジットに反して、折れそうなほどにスリム。整形、容姿に関する質問はNGと固くお達しがありましたが、ブリジット・シリーズの大ヒット後、休む間もなく映画出演が続き、自分を見失いかけて休養に入ったこと、女優として走り続けることの難しさについて、休養中に広めた見聞を生かした最新作に全力投球したことなどを終始優しげな笑顔を浮かべて話してくれました。

ところで、この新作ブリジット・シリーズに浮気な上司役ヒュー・グラントが参戦していないのがちと残念だなと思っていたら、『マダム・フローレンス』ではなんと一回り年上のメリル・ストリープの夫役として出演していました!

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リフティングやボトックスとは無縁の英国俳優ヒュー様は自然な皺を年輪として、時にダンディに、時にユーモラスに、ニューヨーク版“夫婦善哉”を好演しています。近年、パニック症を公表した彼も、しばらく映画から遠ざかっていただけに、これを契機に本格復帰してほしいものです。

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また、なんといっても圧巻なのが、伝説の歌姫フローレンス・フォスター・ジェンキンスを演じるメリル・ストリープの軽やかさです。ヒロインは、莫大な遺産を芸術の振興や慈善事業に費やし、無類の音痴ながら、その歌を納めたレコードはベストセラー。1944年のカーネギー・ホールを満席にしたという実在の人物。『マンマ・ミーア!』で抜群の歌唱力を見せつけたストリープは今回、まず1年かけてオペラの発声法を学び、そこからフローレンス特有の調子っぱずれな歌唱法へと崩していったとか。ネットにアップされたフローレンスの音源を聴くと、ストリープがいかに見事に伝説の歌姫の特徴を捉えているかがわかります。

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生き生きとした歌声と大らかな存在感で、伝説の歌姫を蘇らせるストリープ。70〜80年代に『ディア・ハンター』『ソフィーの選択』といったシリアスな映画で注目を浴び、40年にわたって女優の第一線を走り続けている彼女。60代に入ってからは、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』など、彼女にしかできない難役を次々とこなして演技の幅を見せつけています。年を取ることは、役への理解を深める上でもとてもよいことだと一環して語ってきたストリープ。今回の来日でも年齢を隠すことなく、「私は今60代ですが、今回は想像を膨らませて70代を演じたわ」とにっこり仰っていました。加齢を内面の充実のチャンスととらえ、それを演技で実証してきた大女優の軽やかさに感じ入るこの頃です。

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そしてもう一本、軽やかな心つながりでお薦めしたいのが『ニーゼと光のアトリエ』。まさにフローレンスがカーネギー・ホールに立ったのと同じ頃、ブラジルの精神病院で画期的な絵画セラピーをスタートさせた実在の女医ニーゼの物語です。

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男性社会の中、ショック療法が先進医療として注目を浴びていた時代に、患者の立場に立って残酷な治療を拒否して、絵画やダンス、動物とのふれあいによって患者の心と体を快方へと導いたニーゼ。芸術や文学を愛し、自由な精神から慈しみの治療へと向かったニーゼ自身の姿が映画の最後に登場します。

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オペラの一節を口ずさみ、カメラが回っていると知るとテレるその姿のチャーミングなこと!その一瞬の映像から、晩年の彼女の軽やかな心持ちが伝わってきます。師走に向け、やり残したことだらけで心が重くなるこの季節、“軽やかさ”は日々のテーマです。

●『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』
監督:スティーヴン・フリアーズ
出演:メリル・ストリープ、ヒュー・グラント、サイモン・ヘルバーグ、他
12月1日よりTOHOシネマズ、日劇ほか全国順次公開
配給:ギャガ
http://gaga.ne.jp/florence
Photos © 2016 Pathé Productions Limited. All Rights Reserved

●『ニーゼと光のアトリエ』
監督:ホベルト·ベリネール
出演:グロリア・ピレス、シモーネ・マゼール、他
12月17日よりユーロスペースほかにて全国順次公開
配給:ココロヲ・動かす・映画社 ○
http://maru-movie.com/nise.html
Photos © TvZero