cinema
2016-07-06
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#14 アラフォー、アラフィフの心をくすぐるコメディの傑作

ニューヨーク、映画、コメディとくれば、これまではウディ・アレンの独断場でした。ところが、このニューヨークの小さな巨人のお株を奪うのでは?と思わせるのが、ブルックリンという街の新たな貌も堪能させてくれる『ヤング・アダルト・ニューヨーク』の監督ノア・バームバックです。

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その主人公はベン・ステラーとナオミ・ワッツという巧い二人が演じるドキュメンタリー映画監督ジョシュと、映画プロデューサー、コーネリアという40代カップル。監督とはいうものの、ジョシュは前作から8年間ずっと新作を編集中で、アートスクールの講師をして食いつなぐ日々。コーネリアの方は、高齢出産後、にわかにリア充ぶりをアピールし始めた親友に振り回され、自らの子どもを持たないという選択までが揺るがされている。

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そんな彼らが出会ったのが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のアダム・ドライバー演じる監督志望の青年ジェイミーと、アマンダ・サイフリッド扮するダービーの20代カップル。夜のベッド・タイムも、それぞれSNSチェックに忙しい40代夫婦に反して、ジェイミーたちはDIYした部屋に住み、LPレコードを聴き、VHSのビデオで映画を見て、オーガニック・アイスクリームを手作りする。イケてる若い友に刺激を受けまくる40代、マンネリ化したカップル・ライフも好転したかに見えたけれど……。

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この2世代の違いを描くディテールのひとつひとつがフルッていて、大人になれない40代と、自分大好きな20代の対比が鮮やか!ステラとワッツが好演する、もう若くはないことを突きつけられるジョシュのトホホ感やコーネリアのヒステリーには思わず吹き出しながらも、同世代としてまさに身につまされまくり。

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2004年、『ライフ・アクアティック』のニューヨーク・ジャンケットに、ウェス・アンダーソンの共同脚本家として現れた当時34歳のバームバックは、いかにもシネフィルのインテリといった雰囲気でした。あれから早10年以上が過ぎ、ジョシュと同じ40代となった俊英監督の皮肉とユーモアは、とんがっているだけでなく、余裕と軽さを備えて心地よく見る者の心をくすぐります。アラフォー、アラフィフに希望を与えてくれるラストにも、人生を肯定する監督の円熟を感じさせ、ますますポスト ウディ・アレンを信じさせるのでした。

そしてもう1本ご紹介する映画の舞台は、同じアメリカでも南米はアルゼンチンのブエノスアイレス。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』等、最近はフィクションより出色のドキュメンタリーで注目を浴びるヴィム・ベンダース製作総指揮というので期待はしていましたが、タンゴといえば、ダンスよりアストル・ピアソルの音楽の方により親しみのある方でした。

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ところが、アルゼンチン・タンゴに革命を起こしたマリア・ニエベスとファン・カルロス・コペスという不世出のコンビを描く『ラスト・タンゴ』は、タンゴの成り立ちから現役ダンサーの美しい身体とエネルギッシュな踊り、そして何より80歳のマリアがタンゴに捧げた圧倒的な人生の重みによって門外漢をも虜にします。さらに彼女が語る愛と憎しみに引き裂かれた50年にわたるカップルの歴史は、男と女という生き物の生態を詳らかにし、教訓をも授けてくれます。

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●『ヤング・アダルト・ニューヨーク』
監督:ノア・バームバック
出演:ベン・スティラー、ナオミ・ワッツ、アダム・ドライバー、アマンダ・サイフリッド、他
TOHOシネマズ みゆき座他、7月22日より全国で順次公開
配給:キノフィルムズ
http://www.youngadultny.com/
Photos © 2014 InterActiveCorp Films, LLC.

●『ラスト·タンゴ』
監督·脚本:ヘルマン·クラル
出演:マリア・二エベス、ファン·カルロス·コぺス、他
Bunkamuraル・シネマ他、7月9日より全国で順次公開
配給:アルバトロスフィルム
http://last-tango-movie.com/
Photos©WDR/Lailaps Pictures/SchubertInternational Film/German Kral Filmproduktion