cinema
2016-06-03
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#13 ジョディ·フォスターが描く、事件の生中継が見せる真実

アメリカ女優ジョディ・フォスターといえば、どんな作品を思い出しますか?狂気のハンニバル・レクター博士と対峙するFBI捜査官を演じた『羊たちの沈黙』でしょうか。それとも13歳の少女娼婦を鮮烈に演じた『タクシー・ドライバー』でしょうか。1991年、天才少年の母親役を演じた『リトルマン・テイト』で監督としてもデビューを果たした彼女が久方ぶりにメガホンを取ったのが『マネー・モンスター』。この監督4作目となる作品を見れば、その面白さゆえに、ジョディと言えば『マネー・モンスター』と記憶が書き換えられるかもしれません。

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今回、ジョディは完全にカメラの後ろに回り、主演をジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという息の合った二大スターに委ねています。クルーニー演じるリー・ゲイツは、人気財テクTV番組で巧みな話術を交えて株情報を披露し、“ウォール街の魔術師”と呼ばれる名物司会者。そんなリーをコントロールルームからナビゲイトしながら、番組を演出するのが、ジュリア・ロバーツ演じるディレクターのパティ・フェン。このコンビのスタジオに一人の男カイル(ジャック・オコンネル)が侵入してきます。

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リーが番組で強く薦めた企業株に全財産をつぎ込んで一文無しになったカイルは、株暴落の真相を求めて生放送をジャックするのです。一触即発のピンチの中、パティはリーに冷静な支持を送りながら、報道の正義をかけて、暴落のカラクリをあらゆる方面から探り続けます。問題企業の女性広報担当もそんなパティに突き動かされ、一方、命の危機に瀕しながらも、リーはカイルを代表とする市井の人々の思いに共感を寄せてゆき……。

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番組を固唾を呑んで見つめる観客と、スクリーンの前の観客の気持ちを重ね遭わせるリアルタイム・サスペンス。ロバーツがいつものチャームを少しばかり封印して演じる、クールな敏腕ディレクター役パティには、豪華スターを操りながら、スリルの先にリアルな余韻を残す監督作で力量を見せつける才媛ジョディの姿が重なります。

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そしてこの時期、もう一本の見逃せない女性監督作が、今年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされた『裸足の季節』です。監督はトルコ出身で今はフランスを拠点に活躍する新鋭デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督。

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舞台となる首都イスタンブールから1000km離れた黒海を臨む小さな村で、両親を亡くし、祖母と暮らす5人姉妹は、海辺で男子学生とはしゃいだ翌日、折檻を受け、厳格な叔父によって軟禁状態に置かれてしまいます。処女検査や当人不在の見合い結婚など、本人の意志や人権を踏みにじる封建的な風習に心を砕かれる少女たち。それでも13歳の末娘は自由への闘争を諦めません。

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『ヴァージン・スーサイズ』や『ピクニック・アット・ハンギングロック』を思わせる少女たちの青春の輝きと自由への讃歌を鮮烈に焼き付けながら、少女の置かれた不条理な状況を告発し、希望の光を映し出す『裸足の季節』。

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ベテラン、ジョディによる出色のハリウッド・サスペンスと、トルコの新鋭の傑出したデビュー作は対局のようでいて、どちらも観客を夢中にさせる映像の向うに才気溢れる女性監督の冴えわたる瞳が輝いています。

●『マネー·モンスター』
監督:ジョディ·フォスター
出演:ジョージ·クルーニー、ジュリア·ロバーツ、他
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ他、6月10日より全国で順次公開
配給:ソニー·ピクチャーズ
http://www.moneymonster.jp/splash/
Photos © 2016 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

●『裸足の季節』
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
出演:ギュネシ・シェンソイ、ドア・ドゥウシル、トゥーバ・スングルオウル、エリット・イシジャン、他
シネスイッチ銀座、恵比寿ガーデンシネマ他、6月11日より全国で順次公開
配給:ビターズ・エンド
http://www.bitters.co.jp/hadashi/
Photos ©2015 CG CINEMA-VISTAMAR Filmproduktion -UHLANDFILM- Bam Film -KINOLOGY