cinema
2015-09-15
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#05 秋の夜、現代の寓話に浸ってみる

記録的な猛暑が去り、ちょっぴり人恋しい秋の訪れ。そんな気分に飛び込んできたのが、空港を見下ろすホテルの窓辺に、メイド姿の女の子がもの憂げにたたずむ『バードピープル』のビジュアルでした。

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この夏公開されたフランソワ・オゾン監督作『彼は秘密の女ともだち』にも主演している注目のフランス女優アナイス・ドゥムースティエ演じるこのヒロインは、「週に10時間、月40時間も電車の中で過ごしてる」とこぼしながら、シャルル・ド・ゴール空港側のホテルで週5日働くオードレー。誰もいない客室を片付け、ベッドを整え、備品を揃えて次なる客室へ。まるで透明人間みたいに、仕事が終われば、一人暮らしのアパートへと帰るだけ。ところがホテルが停電したある夜、闇を照らす空港の煌めく灯りに誘われて屋上に出たオードリーは“可愛い姿”に変身し、デイヴィッド・ボウイの「スペイス・オディティ」に乗って夜のパリへと飛び立つことに……。

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この『バードピープル』は、前作『レディ・チャタレー』から8年ぶりとなる、フランスの女性監督パスカル・フェランの最新作です。寡作で知られる才媛ですが、撮りたいものをじっくりと吟味し、そのテーマに合わせて柔軟に生み出すスタイルは新鮮な驚きと時代の空気を運んできます。そんな最新作には、仕事とも妻とも携帯電話とスカイプで縁を切るアメリカ人男性ゲイリーという、もう一人の主人公も登場します。

世界の裏側ともインターネットで瞬時に繋がれる一方で、人々は人間的な出会いに餓え、孤独な心を抱えたまま。そんな現代を描きながら、空港を見下ろすビジネス・ホテルという無機質な空間が普遍的な寓話の舞台として効果を発揮しています。

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そして、やはり注目の女性監督作『ザ・ヴァンパイヤ~残酷な牙を持つ少女』。ホラー感たっぷりの邦題に気後れするかもしれませんが、ご心配には及びません!イラン系の新鋭アナ・リリ・アミリプール監督が描く美しいヒロインは、確かにドラキュラではありますが、ボーダーTシャツにチャドルを被り、コンバースでスケボーを駆るという、なんともクールなスタイルで登場です。

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そして監督が敬愛するというデイヴィッド・リンチのデビュー作『イレイザーヘッド』に倣ってか、危険な香り漂う架空の夜のイランの街がスタイリッシュなモノクロームの中に浮かび上がって目を楽しませてくれます。やがて夜な夜な街をさまよう孤独な少女に訪れるボーイ・ミーツ・ガール・ストーリー。惹かれ合う二人だけれど、いつかは彼女が彼に牙を剥くのでは!? 彼女が背負った宿命が、スリルとエロスと切なさを猛然と掻き立てます!

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●『バードピープル』
監督:パスカル・フェラン 
出演:アナイス・ドゥムースティエ、ジョシュ・チャールズ、ロシュディ・ゼム、カメリア・ジョルダナ 
9月26日より、ユーロスペース他にて順次ロードショー
配給:エタンチェ
http://birdpeople-suzume.com/
Photos ©Archipel 35 – France 2 Cinéma – Titre et Structure Production

●『ザ・ヴァンパイヤ 〜残酷な牙を持つ少女』
監督:アナ・リリ・アミリプール
出演:シェイラ・ヴァンド、アラシュ・マランディ、マーシャル・マネシュ、モジャン・マーノ
9月19日より、新宿シネマカリテ他にて順次ロードショー。
配給:ギャガ・プラス
http://vampire.gaga.ne.jp/
Photos ©GAGA Corporation,all rights reserved