ローマ時代から天然温泉が湧き出る場所として愛されてきた街バース。「お風呂」の語源の由来にもなった歴史的都市で、それゆえ世界遺産にも登録されています。そのバースに今年9月に開業したのが『ザ・ゲインズボロー・バース・スパ』。ホテル内に温泉をひいた英国初のホテルとして話題に。幸運なことにグランドオープニングにご招待を受けました。

『ザ・ゲインズボロー・バース・スパ』のジョージアン様式の白亜の建物は1824年、建築家ジョン・ピンチによって病院として建設されたもの。アーティストのトーマス・ゲインズボロー卿にちなんで名づけられ、英国の重要文化建築物にも指定されています。後にバース・カレッジの大学寮としても使用されていました。

ホテルとして運営するにあたり、隣接する17世紀の建物とつながれたほか、新たに増築された部分など内部は３つのパートによって構成。ニューヨークの『ザ・カーライル』、ロンドンの『ドーチェスター』など高級ホテルを手掛けたニューヨークの著名デザイン会社シャンパリモード・デザインによる空間は、英国らしいクラシックさを残しつつも華のあるコンテンポラリーさを加味。品格のあるたたずまいがうっとりするほど優雅です。

客室は99室。真っ白なベッドリネンにトープ色のカーテン、ブルーグレーの壁紙、そしてチャコールカラーのクッションをアクセントとしたカラースキームはシックでエレガント。高さのあるベッドはマットレス、ピロー、シーツ、デュベなどどれも最高級の素材を使用して、とろけそうなほど極上の寝心地。もう、住んでしまいたくなるほど快適でした。

注目は３部屋あるバース・スパ・ルーム。温泉付きのスペシャルルームで、クラシックなスタイルのバスタブには温泉とお湯のふたつの蛇口が備えられ、お好みでプライベートな温泉体験を満喫することができます。残念ながらイギリスでは殺菌義務があるため日本のようにピュアな天然かけ流しとはいきませんが、イギリスで唯一、このホテルでしか体験できないのは貴重。温泉に入り体を温めた後、そのままシーツにすべりこんで愉悦のベッドタイムを心ゆくまで味わうなんて最高に贅沢です。

そして、ホテル最大の特徴が地階に併設された温泉＆スパ施設「スパ・ビレッジ・バース」です。史跡に残される古代ローマの浴場をイメージした広々としたメインプールを中心に小さな個室風の浴場がふたつ。そしてドライ＆スチームサウナにアイス・アルコーブと名付けられた氷をためたスペースがあります。ゲストはスパトリートメントを受ける前にまず、温泉で体を温めるよう指示されます。

メインプールと個室プールのうちひとつは温度が35℃、もうひとつの個室プールは40℃。どちらかに最初10分ほどつかります。そのあとに冷水シャワーを足元からヒップ、おなかまわり、腕、胸元とゆっくりとかけまわし、一杯のお水を飲んで小休止。そのあとにドライサウナに5～10分ほど入ることで血行をうながします。まあ、日本人は温泉慣れしているので必ずしもこれに従う必要はありません。やや温泉がぬるいので私は40℃のプールにじっくり入り、メインプールに備えられたジェットシャワーで肩や腰まわりをもみほぐしました。ちなみに更衣室をのぞきプールエリアは男女共用なので水着着用となります。

温泉で体を温めたあとに、お待ちかねのスパトリートメント。私が選んだのはマグネシウム・ラップ（90分）。マグネシウムは人体に不可欠なミネラル。それをたっぷりと含んだクリームを塗布し、ラップすることで肌から吸収。体の血行をあげるほか、メタボ解消、快眠に役立つといわれています。ラッピング後は丁寧なボディマッサージでより効果をうながします。加えてフェイシャルも体験。こちらはリニュー・ウィズ・ローズ（60分）。海藻マスクでキメを整え、バラやフルーツ系のエッセンスでファーミング。肌の状態を見極めながらセラピストがベストな状態へと導いてくれます。マスクの間にはヘアスカルプ、手か足のマッサージもしてくれるので満足度も高く、終わったあとは肌がふっくらと。温泉との相乗効果を実感します。

バースの街そのものもとても魅力的です。ユネスコ世界遺産に登録された歴史的背景を感じる史蹟が点在。筆頭は１世紀ごろ、数百年にわたって開発され、人々の社交場としてあるいは療養に利用されたローマン・バス。入浴はできませんが、今もなお湧き上がる温泉をたたえた英国随一の天然温泉です。

また、『ザ・ゲインズボロー・バース・スパ』の向かいには『サーメ・バース・スパ』があり、こちらは誰でも気軽に利用できる温泉施設で、屋上の展望露天プールが人気。通りにはほのかな硫黄の香りが漂い、バスローブ姿で歩く人もいるなど温泉情緒を感じさせます。ちなみに『ザ・ゲインズボロー・バース・スパ』の開業がかなり遅れたのですが、理由は下から遺跡が見つかったため。これもバースらしいこと。発掘で見つかった古代のコインの一部はレセプションに飾られています。

このほか、壮麗なステンドグラスと天使たちが梯子で天国へのぼるレリーフがみごとなバース・アビー（大僧院）や、ジョージアン様式の建物が壮観なザ・サーカスなど歩いてまわれる距離に名所が点在。学生街の表情も持つため個性的なシアターやパブ、小粋なカフェ、レストランも多く、滞在して楽しみたい魅力を持っています。少し郊外に足をのばせばレイコック、キャッスルクームといった愛らしい田舎町も。温泉を楽しみながら英国カントリーサイドの素朴な美しさをたっぷりと満喫できます。

●ザ・ゲインズボロー・バース・スパ
http://www.thegainsboroughbathspa.co.uk/index.html