travel
2015-10-07
心も身体もきれいになる旅へ by 寺田直子
#06 モン·サン·ミッシェルが島になる日

一度は訪れたいと憧れを持つ人も多いモン・サン・ミッシェル。遡ること紀元708年、大天使ミカエルの「ここに修道院を建てよ」というお告げによって誕生したといわれる、世界的に最も美しい建築物のひとつだといえます。ロマネスク、ゴシック様式といったさまざまな建築スタイルを駆使した建物は、修復が繰り返され今のような姿へ。今でも巡礼者たちの聖地であり、また多くの観光客をひきつけるフランスを代表する名所でもあります。1979年には「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の一部として世界遺産に登録。何度、訪れても飽きることのない美しさをたたえています。

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そんなモン・サン・ミッシェルですが堤防道やダムの建設により砂が堆積し、近年は景観を損ねるだけではなく大潮になると海に浮かぶ姿を見ることができなくなっていました。そこで2005年からスタートしたのが「モン・サン・ミッシェル湾再開発プロジェクト」。周辺の生態環境を損ねることなく、堤防の代わりに潮流を邪魔することのないオーガニックな遊歩道を整備。城壁下にあった駐車場も排除し開始から10年後の2014年、みごと中世と同じ姿へと生まれ変わりました。そして今年、2015年は18年に一度といわれる大潮がめぐる年。長らく見ることのできなかった孤島のモン・サン・ミッシェルを見る貴重なチャンスとなりました。

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モン・サン・ミッシェルは潮位12.9mを超えると遊歩道が一部水に沈み、孤立した島になります。世紀の大潮を迎えた2015年3月21日、潮位は19mを超え完全に海に浮かぶ姿を見せてくれました。残念ながらここまでの大潮は次回、2033年までおあずけ。でも、そこまでいかないものの今年はそれに次ぐ規模の大潮が複数回、訪れます。そのひとつが8月31日でした。私が訪れたのはこの前日の30日。パリからTGVでレンヌまで移動し、レンヌからは70分ほどバスに揺られてモン・サン・ミッシェルに到着。潮位があがるのが夕方ということでホテルにチェックイン、それまではゆっくりと過ごします。

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現在、モン・サン・ミッシェルへは2キロほどの遊歩道を歩くか、無料で巡回する電気バスを利用します。天気はあまり良くなかったけれど私は歩くことに。ここに来るのは3年ぶり。整備されて新しくなった遊歩道散策を楽しみます。

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「プレサレ」と呼ばれる潮風で風味を増した牧草を食べる羊の姿ものどか。ちょっとかわいそうですが彼らはこのあたりの名物。プレサレのラムは本当に柔らかく美味しいのです(ゴメンなさい!)。ラムは脂肪燃焼効果があるといわれているアミノ酸の一種、L-カルチニンが豊富で美容効果も期待できそうです。

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そして、ぜひ味わいたいのがオイスター。モン・サン・ミッシェルのレストランでも食べることはもちろんできますが、カンカルなど近隣の街ではオイスター屋台が並び、気軽に味わえます。ビタミンB1、B2や亜鉛、ミネラル、タウリンなどをたっぷり含んだオイスターはまさに「海のミルク」。この地を訪れたらはずせないお楽しみです。

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やがて夕刻になり、潮が満ちてくるのを待つ観光客が増え始めます。この日の満潮は20時36分、完全に島になる13m超えの予定。

19時30分頃からでしょうか、それまでおだやかだった砂州にひたひたと海水が満ちはじめました。驚くのはその速さ。先ほどまで人が歩き、海鳥たちがくつろいでいた場所があっという間に海へと変わっていきます。急激な潮流に驚き、鳥たちがいっせいに飛び立っていく。風向きも変わったのか、ざああっと潮が流れる音が大きくなり、怖いほど潮位がぐんぐんあがっていきます。

ゆっくりと空が淡いブルーからパープルへと変わり、モン・サン・ミッシェルも静かに海に囲まれていきます。それは俗世から離れ、まさに聖域へと昇天するかのよう。やがて満潮になり完全な孤島へ。大迫力の潮の流れと孤高の存在へと変わっていく島の姿には大いなる自然と人間のドラマがタペストリーのように折重なり、私は言葉もなく感動に包まれていました。

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今年は10月に数回、潮位13mを超える日があります。また、2016年になると2~4月にも複数のチャンスが。もし、この美しき世界遺産を訪れたいと願っているのなら、ぜひこの貴重な瞬間にあわせてほしいと心から思います。

※潮位の詳細はモン・サン・ミッシェル公式サイトで確認することができます。
http://www.ot-montsaintmichel.com/en/horaire-marees/mont-saint-michel.htm