これまでに、本当に沢山の「パエリア取材」をしてきました。バレンシア地方に行くと、ここそこにこだわりのパエリアが存在し、事細かな蘊蓄、微細にわたった美味しくするためのトリックがあり、どれが一番どこが王道となかなか言えません。 レストランの調理人ではなくても、それぞれの家庭では代々男たちの間で受け継がれたパエリアの技があり、日曜日のお父さんのパエリア作りは、まるで神聖な儀式のよう。調理の火の理想は薪ですが、オレンジの枯れ枝、ブドウの枯れ枝がいいなど、薪の種類にもこだわりがあります。一方 バレンシア市内の海辺の老舗では仕上げはオーブンでしたし、パエリア大会などでは安定の火力の大型のガス調理器が活躍していました。
調理アイテム一つ、中に入れる材料ひとつ、ましてやその調理方法ともなれば、執念ともいえる細かい約束事だらけ。数々の美味しいパエリア見て、頂いてきた経験から、そのポイントは次のように集約できるかもしれません。
●お米は短米種
●絶対パエリアパンを使用
●指を横にした厚さぐらいで仕上げる
●材料はそれぞれをオリーブオイルでじっくり炒める
●トマトはフレッシュをじっくりと炒める
●パエリアを作り始めたら絶対そこから動かない、最後まで見張る!
個人的には、どっさとローズマリーの枝が散らしてあるパエリアが大好きです。パレンシアの伝統といわれるパエリアではトマトやお米といった材料の他に「うさぎ肉、ガロフォン(白い大きなインゲン豆)、フディアス プラナ(大型のモロッコインゲン)、かたつむり、鶏肉」が必須アイテムでしょうか。お米は「ボンバ」種を愛用する人が圧倒的。この種類は短米で吸水がよく、むっちりとした味わいです。
家庭では「絶対失敗しないスチーム米」でパエリアをという流行もありましたが、やはり短米に、じっくり美味しいスープを吸わせてゆくに越したことはありません。炊く際にスープを使う人は皆無で、美味しいパエリアにはバレンシアの水が一番のようです。私たち日本人もやはりお米の旨味が DNAに刻み込まれていますが、パエリアのお米の滋味というのは、その白米信仰を覆してくれるものでした。
かつて、バレンシアの山間部でおばあさん(!)が村人みんなに作るパエリアを頂いたときに、「あぁ!!お米も野菜のひとつだ!!」と覚えた感動は忘れられません。「白米だけ」に勝るとも劣らない、お米の魅力を最大限に表現できる料理がパエリアなのかもしれません。
お米が鮮やかな黄色で、赤ピーマンが赤く、ムール貝がオレンジに輝く...というようなパエリアも観光地的には許容しますが、「できる」輩の パエリアでは、じっくり炒める材料がちょっと汚いような鈍い色になっているのも特徴。
表面は材料が豪華に盛り上がっていることはなく、平らで、素っ気ないほどの風貌のパエリアを見ると、胸がきゅんとなります。
ちなみに、バレンシアでは、パエリアパンを囲んで、取り皿なしに直にスプーンでこそげながら食べるのも普通の風景。「ソカラッ」と呼ばれる、鍋底の軽く焦げたお米も、パエリアの醍醐味の一つでしょうか。あぁ、書いているうちに、またバレンシアに行きたくなってきました!