日本からのクライアントをアテンドすると、必ずといっていいほど一度は「肉お願いします!」のリクエストがかかります。ハードなロケでも、やはりお肉を食べた翌日は体力も持つというもの。スペインといえばイベリコ豚が有名ですが、スペイン人が「肉を食べよう!」と気合いを入れるときには、「Chuleton(チュレトン)」と呼ばれる、骨付きの牛ステーキがご馳走です。
バスク牛
このチュレトン、大きな肋骨を残して1kg前後にカットされたリブロースステーキのことですが、炭火で焼いてバラバラと岩塩をかけていただくのが主流。チュレトンに使われる肉は、「Buey (ブエイ/48ヶ月以上の雄牛で去勢されたもの)」もしくは「Vaca(48ヶ月以上の雌牛) 」が普通です。
バスク牛
不思議なことに、これほどの牛肉生産があっても、スペイン国内では、原産地との強いつながりを示すブランドの指標である「DOP(Denominacion de origen protegida原産地呼称認定)」を受けている牛肉はなく、どれも「IGP(Indicacion geográfica protegida保護地理的表示)」にとどまります。アビラ、サラマンカ、カンタブリア、グアダラマ(マドリー州)、ガリシア、バスクの牛肉が、それにあたります。観光客には「アビラのチュレトン」が有名ではありますが、国内的にはガリシア牛が圧倒的な認知度と人気でしょうか。バスク牛も捨てがたい。
アビラ牛
こうしたIGP表示のある牛肉に共通するのは、生産地が緑深く豊かな水のある地域であること。和牛と同様、 肉質を決めるのに水は重要な要素なのかもしれません。が、こうした牛を焼いたときに落ちる脂は、和牛のそれとは全く違い、もっとダイレクトに繊維質の焦げる「肉々しい」香り。赤身部分は適度に引き締まり、噛むほどにジューシーで、肉の味わいが洋の東西ではこんなにも違うのか!と感動する方も多い一品です。
ガリシア牛
1kg前後の肉を上手に焼くのは、店の職人技の見せ所。始めに強めの炭火で外側を焼いてから、今度は火をコントロールしながら遠火の弱火で焼いてゆきますが、肉汁を閉じ込めて、かつ中は赤いまま、かつ軽く火が通っているという状態に仕上げます。シンプルなレタスのサラダをつけてくれるところもあり、シャキシャキのレタスと冷たいビネガーで時々口直しをしながら、果敢に大量の肉をおなかに収める、というわけです。
バスク牛
チュレトンとは別に、カットされた赤身の肉を熱く焼いた陶板の上で焼いていただく「Carne a la piedra(カルネ·ア・ラ·ピエドラ)」もスペインでは定番の肉のご馳走。
バスク牛の陶板焼き
ガスコンロとは違い、こちらもじっくりじわじわ火が通るので、焼き肉とはまた違った印象になり、さっぱりとしていくらでも食べられる感じ。こうしてあちこちでスペインの肉行脚をしていますが、日本のクライアントをお連れすると、皆さん、必ずおっしゃるのです。
「あぁ!白飯とおしょうゆ!」(笑)
いえいえ、スペインでは是非、お肉だけでおなかいっぱいにしてみてください!赤身肉は翌日のパワーが違いますよ!