1995年の移住当時に住んでいたアンダルシアの村は、金曜午後から商店が閉まっていた。「眠らない街」東京から「シエスタからも起きないその街」に越してきた当初、不便で腹立たしいと思ったのも数週間で、慣れてみると誠に住みやすい場所だった。
店も開かない週末はもっぱら家族や友人と食事と散歩。映画館すらまだなくて、人々は唯一存在する遊歩道レアル通りを行ったり来たり。編み目のシャッターの閉まったショーウィンドウを覗いて品定めしたり、顔見知りと立ち話で午後が終わるということもしばしばだったっけ。たった一本の散歩道を歩くのにも、年配夫婦は正装してた。おばあさんたちは家の前にイスを出して、エプロン姿で日がな一日おしゃべり。ヴォバリー夫人が「田舎では窓が劇場」と言ったくだりをよく思い出してた当時、人を見ることが楽しくて、店が閉まる週末を退屈と思ったこともなかった。
それも今や昔。今住む首都マドリーでは商店なら「24時間365日開けてもよい」という法令が3年前から適用されて、以来、街の雰囲気がどんどん世界の他の大都市に似通ってきてしまった。便利だけど、スペインならではの家族の絆がなくなってしまうのではないかと、ちょっと心配。週末もみな忙しそう。とはいえ、彼らが忙しいのは家族や友人と集まったり、レジャーやホビーにいそしむから。楽しむことにどん欲なこの国では、金曜半ドンになる会社もまだまだ多いし、だいたい木曜日午後から、クライアントからのメールの返信スピードが急激に減速するもの。だから、急ぐ案件は週初めの3日間に処理するのが勝負と思っている。
週末の過ごし方は至ってシンプル。家族や友人と集まって食事を楽しむ人が多い。家が大きくなくとも、お皿が人数分揃っていなくても、料理が下手でも問題なし。集まって、顔を見て、美味しいお酒とつまみがあれば、スペイン人は何時間でもおしゃべりできるすごい才能を誰もがもっているのダ。集まる時間もまちまち。食事後のおしゃべりタイム「ソブレメサ」(このためだけの単語が存在することが、そもそもすごいと思う)が長いほど 「よい週末だった」ということになる。訪問先で昼をごちそうになって、そのまま夜も一緒に、なんてこともしばしば。
そんな習慣なので、 市場も金曜午後と土曜日がかきいれどき。私が愛用している市場では、 週末にはどっと知らない顔が増える。旬の名残りになってきたアーティチョークや、大きくて美しいイチゴ、青物が段々姿を消して来て、果物が幅を利かせてくると、もう春。週末の市場の買い物に向けて、月曜日から冷蔵庫のスペースとレシピの攻略の妄想にふけったりするのも、いとおかし。ほらね、やっぱり週末のために生きてる(笑)!