NYにビアガーデンはないが、ルーフトップバーというのがある。最近はいわゆるブティックホテルと呼ばれる新しいホテルのルーフトップバーが素敵らしい。ママ友を誘ってミッドタウンのオフィス街に向かった。ところが、二軒まわってびっくり。なんとホテルの前に行列が!「な、並んでる!?」 そうか、そうだったのか。「列に並ぶ」などという贅沢は許されなかった子育て必死時代。列に並んでまでもホットな場所をおさえる、などという気力も時間的余裕もなかった。そうやって戦線からはずれている間に、どうやらニューヨークのルーフトップバー事情は、「行列ができていなければ、イケてない」という常識に変わっていたらしい。ならば、並んでこそ。Archerというホテルのspyglasss roof top barで一杯!を目指してレッツ行列。
20分ほど並んでついにルーフにたどりつけば、そこは戦場。混み混みのガヤガヤ。ちょっと高そうなスーツに身を包んだ、若手のビジネスマン、ウーマンたちが、いかにも「これから稼ぎまくってやるぞ~」的エネルギーをプンプン放出している。
カウンターに行って、自分で飲み物を注文しなくてはいけないのだが、これがまた難関。カウンターでは1ミリの隙間もないような状態で人々が並んで飲んでいる。まるで壁のように。そのむこうで、4倍速で動いているバーテンテンダーに気づいてもらうために手をふり、ぴょんぴょん飛びはね、、。でもそこにルールはない。声と態度の大きい者勝ち。生馬の目をぬくNYの一戦で今働いている人たちに後ろからバンバン抜かされ、ようやくビールを手にした頃には、もうヨレヨレ。
気をとりなおし、ビールグラス3つを両手でつかみ、こぼさないように人混みをぬい、立って飲める場所を確保してくれていたママ友たちのもとへたどり着く。やっとやっとホッと一息。ついに冷えた地元ブルックリンのビールが喉を通っていく。「あぁ、、、おいしい!」どこからともなく気持ちのいい風がさ~っとふいてきて、やっと目の前にドアップでそびえるエンパイヤーステイトビルに目をやる余裕ができた。
「今さらエンパイヤーステイトビルなんて見ながら飲まなくていいわ。反対側のすいてる方でいいわよね」と、豪語していたNY暮らしの長い私たちだったが、ほろ酔い加減も手伝って「なんかやっぱりきれい。テンションあがるぅ」などと久々に初々しい気分。夕陽に染まるその勇姿を素直に讃え、もう一度みんなで乾杯した。次回は、野心組の若者たちが仕事を終えてやってくる前の静かな時間帯を狙おうね!と、誓いながら。
ホットなバーもいいけれど、他にも静かないいところはたくさん。例えばメトロポリタン美術館のルーフトップ。本来は、当然ながらアートの展示を鑑賞する所。でも同時にドリンクも楽しめる。それこそ教科書にでてきたような絵画の本物を、ほろよい加減のご機嫌さんで、ゆっくり愛でる至福の時。作品の見え方もちょっと違ったりするかも。
Pier A Harbor Houseという名のレストランの二階のバーのバルコニーもいい。暮れなずむ空が淡いオレンジにそまり、やがて自由の女神が掲げる松明や、対岸のジャジーシティーの明かりが浮かびあがってくる。そんな日没前後がロマンチック。