観光客として私が初めてフランスを訪れたのは1990年。女友達と欧州3都市を巡った時のことです。約2週間、ドイツ、フランス、イギリスの順で移動しましたが、一番居心地の悪い思いをしたのは正直なところ、フランスでした(笑)。その理由は、3国の中でもっとも「イメージ」と「実際」の姿に大きなギャップのある国だったからだと思います。私と同様の感想をもつ日本人は滞在期間の長短にかかわらず未だに多いようですが、海外からやってきた者にこのような強い違和感を抱かせ続ける「フランス」とは、一体どんな国なのでしょうか。このブログでは現在パリに住む日本人として日々実感することをお伝えし、フランス旅行や留学に興味をお持ちの方々に役立てていただければいいなと思っています。
さて、25年前の訪問で多少フランス嫌いになってしまった私が、今ではパリに居を構えフランス人の夫と一緒にワインショップを経営しているのですから、人生ってつくづく不思議なものです。ところでフランス人というと、いつもワインを飲んでいるというイメージがありませんか?たしかにフランスの歴史上、ワインは純粋な「嗜好品」というより日常生活にかかせない「必需品」という時期が長らくあったくらいですから、とても身近なものだということに間違いはありません。上下水道のインフラが整う以前、人々が最寄りの河川などで入手できる水は非常に不衛生で、生水を口にすることが致命的になりかねなかった時、ワインは水の代替物だったのです。第一次世界大戦時には、兵士や炭鉱労働者への水・食料代わりの配給品でもありました。この体験の記憶は、現代フランス人の生活感覚の中からもまだ完全には消え去っていないのでしょう。
ただし、フランスにおけるワインのあり方は、ガストロノミー、つまり美食学の中で培われてきた側面もあり、その文脈の中でワインを語れば、教養の高さや洗練度を示すとことにもなります。ということで、ワインを巡るフランス人に対するイメージは実のところ、「朝から晩までがぶがぶ飲んで鼻先を真っ赤にした酔っ払い」と「分厚い本を片手にしかつめらしい顔をして薀蓄ばかり語るインテリ」という両極端なカリカチュアが浮かんできたりするのではないでしょうか?
その一方で、主に都市部に住む比較的裕福な若中年層のあいだでは自然・健康志向を発端とする食生活への見直しも急速に高まっており、飲酒離れという傾向も見られます。が、面白いことにこの同じ意識の高まりから逆にワインへの思いを熱くする人々もいて、今、無農薬有機農法のブドウで造った「ビオワイン」が注目され、大きな潮流となっています。次回はこの「ビオワイン」にまつわる話をご紹介しますね。