cinema
2015-06-17
感性を養う映画との出会い by 久保玲子
#02 絵画のように美しいフランス映画

初夏とは思えぬ暑さが続き、気づけば各地で梅雨入りの声が。ちょっと悔しいので、せめてスクリーンの中ぐらい気持ちよい初夏の日差しを求め、デジタルリマスターで蘇ったジャン・ルノワールの『ピクニック』の話題をいたしましょう。1936年の初夏、フランスはフォンテーヌブローの森にほど近い川のほとりで撮影された映画(フランス公開は終戦後の1946年)ですが、その美しさゆえに映画史上、最も美しい瞬間がここにあると謳われている傑作です。

3.「ピクニック」sub2

パリの金物屋デュフール氏が、妻と結婚間近の娘アンリエット、そのフィアンセたちを連れ、日曜のピクニックに繰り出します。木漏れ日の下、ブランコに興じるアンリエッタの躍動感の半端なさに、スクリーンの内と外の目は一様に釘付けに!やはり彼女に見とれていた地元の船漕ぎ青年アンリとロドルフは、アンリエット母娘を川遊びに誘います。小舟が走ってゆく水面の煌めき。そよ風に揺れる緑と小鳥のさえずり。やがて生の歓びに高揚した美しきアリエッタ(演じるシルヴィア・バタイユは、ジョルジュ・バタイユとジャック・ラカンの妻となった女優)の頬を伝う涙。この涙が呼ぶ嵐とその切ない後日談が、美しい時間を限りあるものとしていっそう煌めかせ、人生の深みをたたえた『ピクニック』を奇蹟の映画たらしめているのです。

2.「ピクニック」main(ヨコ位置)

この映画の監督は、『大いなる幻影』や『恋多き女』等の名作を残したジャン・ルノワール。彼は、印象派の画家オーギュスト・ルノワールの次男で、フランソワ・トリュフォーをはじめとするヌーヴェルヴァーグの監督たちから父のように慕われた名匠です。その人望を証明するかのごとく、『ピクニック』にもルキノ・ヴィスコンティ、ジャック・ベッケル、名カメラマンのアンリ・カルティエ・ブレッソンといったキラ星のようなアーティストが助監督として参加しています。彼らを惹きつけたジャン・ルノワールの真骨頂である生の輝きと喜びは、名文家として知られる彼の小説や自伝にも共通して溢れています。

1.「ピクニック」sub3

この生を掬い取る術を名匠が父からどう受け継ぎ、獲得したかを垣間見ることができる映画が、オーギュストの晩年を描いた映画『ルノワール 陽だまりの裸婦』。戦争で負傷して父の元へ返ってきた息子ジャンは、助手としてリュウマチに冒された父の画業を支えます。デッサンのために、父のモデル、デデ(後にジャンの妻に)らとともに森の奥の水辺に繰り出し、光と水と萌える緑のなかで、泉に遊ぶニンフのごときモデルたちの生の喜びがほとばしる瞬間を父の隣でじっと見つめるジャンの姿が映し出されます。

そして天才の視線ということで共通するのが、まもなく公開される『ターナー 光に愛を求めて』。変わり者と呼ばれた18世紀生まれの英国画家の横顔と類い稀なる技量を陰影深く描いた英国の巨匠マイク・リーの最新作です。名画に描かれた光や雨、風、稲妻、蒸気といった自然物が、画家の目がとらえ、キャンバスに映し撮られたままの姿でスクリーンに浮かび上がる様は圧巻で、思わず溜め息がこぼれることでしょう。

4.【ターナー、光に愛を求めて】サブ⑤
© Channel Four Television Corporation, The British Film Institute, Diaphana, France3 Cinéma,
Untitled 13 Commissioning Ltd 2014.

●『ピクニック』
監督・脚本・台詞:ジャン・ルノワール
出演:シルヴィア・バタイユ、ジャーヌ・マルカン、アンドレ・ガブリエロ、他
1936 年/原題:Une Partie de Campagne/フランス映画/40 分
6月13日より東京・渋谷シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開。
配給:クレストインターナショナル
http://crest-inter.co.jp/picnic

●『ターナー 光に愛を求めて』
監督:マイク・リー
出演:ティモシー・スポール、ドロシー・アトキンソン、マリオン・ベイリー、他
2014年/原題:Mr.Turner/英・仏・独/英語/150分
6月20日より東京・渋谷Bunkamura ル・シネマ他にて全国順次公開。
配給:アルバトロス・フィルム/セテラ・インターナショナル
http://www.cetera.co.jp/turner/

●『ルノワール 陽だまりの裸婦』ポニーキャニオンからDVD発売中。