少し前に幅を利かせていた“美魔女”なる言葉。若々しいことはもちろん素晴らしいけれど、なぜか“美魔女”というふれこみで登場するイメージは人工的で、逆に脅迫観念を掻き立てられることも。きっとこの言葉が、若くない女性=美しいはずがないと考える男性から発想されたものだからじゃないかしらん。逆に女性は、美しい人の内には若々しいバイタリティや瑞々しい精神、ひいては真摯でヘルシー生き方が満ちていると感じるのでは?
昨年公開の『マップ・トゥー・ザ・スターズ』で全身整形のハリウッド女優を演じ、カンヌ映画祭主演女優賞を贈られたたジュリアン・ムーアも、外見はもとより、その内側の美しさ感じさせる女優の代表でしょう。1960年生まれで今年55歳。現在公開中の『アリスのままで』で演じるアリスは、優しい夫と3人の子供に囲まれて暮らす著名な言語学者。そんなヒロインは講演中に突然、単語を忘れ、ランニング中に迷子に。医者は彼女に若年生アルツハイマー、しかも家族に遺伝する家族性の病だと宣告。人生を捧げてきたものが、すべて消え去ってしまう恐怖に怯えながら、記憶を失ってゆく自分に宛ててメッセージを残すアリス。
アリスの感情の揺れと不治の病の進行を淡々と映し撮ったリチャード・グラッツァー監督は、筋萎縮性側索硬化症を患い、映画完成目前に他界したそうです。やはり不治の病に冒された監督が見つめる生の輝きを、全身に染み渡らせてアリスを演じたムーアは、この演技で遂にアカデミー主演女優賞を手にしました。
そして1951年のデビュー以来、銀幕のスターとして150本以上の出演作を誇る日本の美しき大女優・若尾文子さま。その出演珠玉作60本が一堂に会する『若尾文子映画祭 青春』が絶賛開催中です。先頃お会いした若尾さんは、1933年生まれ、82歳というのが俄に信じられないほど、白磁のような肌も、声も、若い頃のままで、おっとりとした口調で日本の黄金期のひとこまと、今なお燃やしていらっしゃる映画への愛を語ってくださいました。
小津安二郎『浮き草』、溝口健二『祇園囃子』『赤線地帯』、増村保造『青空娘』『刺青』『妻は告白する』、川島雄三『女は二度生まれる』『しとやかな獣』といった日本を代表する監督と残した傑作群に描かれた日本文化や日本女性の粋や矜持、今よりずっとずっと成熟した女のドラマに酔いしれるため、映画館に駆けつけてほしいと思います。
●『アリスのままで』
監督&脚色:リチャード・グラッツァー&ウォッシュ・ウェストモアランド
出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、他
新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他全国で公開中
配給:キネフィルムズ
http://www.kinofilms.jp/
Photos ©2014BSM Studio. All Rights Reserved.
●『若尾文子映画祭 青春』
6月27日~東京角川シネマ新宿、7月11日~大阪シネ・ヌーヴォ他にて全国順次上映
配給:KADOKAWA
http://www.cinemakadokawa.jp/ayakoseishun/
Photo ©KADOKAWA 1957